研究概要 |
(1)研究の背景 : 現代の通貨制度の基礎であるブレトンウッズ体制が第2次大戦直後に構築されて以降, 日本を含む各国の研究者や実務家の物価問題への関心は, いかにして一般物価水準の上昇, すなわちインフレーションを防ぐかという一点に集中していた。ところが, 1990年代初め以降の日本では, 物価上昇率がゼロ近傍にあり, 過去と明らかに異なる傾向がみられる。また, これを反映して名目金利も低めで推移し, 特に中央銀行の政策金利は1990年代後半以降, 名目金利の下限であるゼロの壁に突き当たっており, ケインズの「流動性の罠」に近い状況が生じている。日本で起きている「2つのゼロ」現象に対して各国の研究者や実務家の関心が高まっている。 (2)研究の目的 : 日本の物価ダイナミクスに生じた変化を詳細に観察し, その原因を解明することにより, 国際的な関心の高まりに応えることを目的とする。 (3)研究の方法 : 物価というマクロ指標に生じている変化を, ミクロの価格データを用いて解明するというアプローチを採る。本研究の特徴は, これまで十分な注意が払われてこなかったミクロとマクロの相互依存関係に着目し, その分析を通じて物価プロセスの変容を解明するところにある。 具体的には,(1)様々な品目について企業の価格設定行動にミクロレベルでどのような変化が生じているのかを明らかにする,(2)そのミクロレベルでの変化がフィリップス曲線(物価上昇率と産出量ギャップの関係を表す曲線)などのマクロ変数間の関係にどのような影響を及ぼしているかを明らかにする。その上で,(3)1980年代半ば以降の物価プロセスの変容を説明する理論仮説・構造モデルを提示し, それを踏まえて,(4)国民生活の安定をもたらす望ましい金融・財政政策運営について提言を行う。
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