研究概要 |
本年度の最大のテーマは、「補償作用を誘起するシグナル因子の正体は何か。」である。今年度、初めて葉原基においてキメラ状に特定の遺伝子の発現を誘導する系を確立し、これを使って、補償作用を誘起するシグナルが、細胞自律的に働くのか、細胞非自律的に働くのかという課題(Ferjani et al.2008)について解析し、その現段階での成果について、植物生理学会年大会において発表を行なった。 さらに核内倍加の変異体等の解析から、ゲノム倍数化と細胞肥大との間には、未知の制御系が介在している可能性が高いことが判明した(Tsukaya 2008)。 また補償作用を誘起する過程と補償作用を実際に引き起こす過程とに関して、これまでに同定した変異体群について原因遺伝子の同定を進めると共に、昨年度から、ベルギーのGerrit Beemster博士およびスペインのJose Luis Micol博士との研究協力の結果、補償作用を示しかつ葉形が変形する変異体の原因遺伝子を多数同定した(投稿準備中)。さらにマイクロアレイ解析から下流遺伝子候補と考えられた遺伝子群の機能解析を進めた。それらの解析の結果、リボソーム関連遺伝子群のうちの一部が、細胞増殖と細胞伸長の制御の要に位置すること、またひいては背腹性の制御にも関わることを明らかにした(Fujikura et al.,in press)。 またこれまで定義してきたタイプの補償作用とは逆に、細胞数が増加して細胞サイズが減少する、「逆補償」タイプの変異体群mscについて原因遺伝子のクローニングをしたところ、いずれも葉位に依存した異型葉性の変異体で、しかもmiR156-SPL系に含まれる遺伝子の変異であった。またこれまでにheteroblastyの制御に関わることが知られているもう一つの経路、tasiR-ARF系についても細胞数と細胞体積を調べたところ、こちらの系の変異体は、外見上の葉の形態で見たときのheteroblastyの変化が明らかに異常であるにもかかわらず、細胞数・細胞体積の変化が見られなかった(Usami et al.,2009)。heteroblastyは従って、複数の制御経路による複合形質であること、また特定の葉位における葉の中の細胞数・細胞体積はmiR156-SPL系によって制御されていることも判明した。
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