研究課題
哺乳類特異的レトロトランスポゾン由来の遺伝子であるPeg10が胎盤形成を通じて哺乳類の個体発生に必須の役割をはたすことを昨年度に発表した(Ono et al.Nat Genet 2006)。さらに、もう一つの同じレトロトランスポゾン由来の遺伝子Peg11/Rtl1についても機能解析を進めてきたが、Peg11/Rtl1が後期胎盤の機能維持に重要であり、この遺伝子の欠失および過剰発現はどちらも胎盤形態異常を伴う機能不全を引き起こすこと、また胎児期後期致死/新生児致死を引き起こす事を明らかにした(Sekita et al.投稿中)。Peg10とPeg11/Rtl1は同じレトロトランスポゾンに由来したと考えられ、どちらも哺乳類の個体発生に必須の機能をもつが、アミノ酸配列の違いから予想されるように機能的に異なった役割を果たしている。これらの結果は、哺乳類の進化という時間的に急速な変化にはレトロトランスポゾンの挿入とその内在遺伝子化という方法で様々な新機能が獲得されたことを示している。現在、これら2つの遺伝子と同じ由来を示すSirhファミリー遺伝子群についても、体系的なノックアウトマウス作成を開始し,また.Peg10に関してはタンパク質の機能解析と結晶化による構造決定を開始した。この哺乳類の胎生獲得に重要な機能を果たしたと考えられるPeg10が、生物進化上でいつ獲得されたのかを解析した。鳥類、両生類、魚類にはこの遺伝子は無く、哺乳類に特異的な遺伝子とこれまで考えられてきた。そこで、哺乳類を構成する3つのグループ(ヒトやマウスを含む真獣類、カンガルー・コアラ等の有袋類、カモノハシ・ハリモグラの単孔類)におけるゲノム比較解析を行い、その詳細な起源を決定した。有袋類にはアミノ酸配列が保存されたPEG10がゲノム上の位置も同じところに同定された。一方、単孔類にはこの遺伝子は存在しなかった。これにより単孔類と獣類が分岐した以降にPEG10のオリジナルなレトロトランスポゾンの挿入があり、その1匹の個体からすべての有袋類、真獣類が派生したという、哺乳類の進化の歴史が明らかとなった(Suzuki et al PLoS Genet in press)。また、有袋類のPEG10は真獣類同様に片親性発現をするインプリンティング遺伝子であり、真獣類でのインプリンティング制御に必須であるDNAメチル化の異なる領域(Differentially Methylated region : DMR)が存在していた。これは有袋類における初めてのDMRの発見であり、これによって真獣類と有袋類のゲノムインプリンティングが共通の機構から由来したことが明らかとなった。さらに有袋類ではPEG10のDMRだけがメチル化されているという事実は、DMRで制御されるゲノムインプリンティングがレトロトランスポゾンのDNAメチル化による抑制機構から生じた初めての実例であると考えられる。レトロトランスポゾンはジェネティックな意味でも、エピジェネティックな意味でも、哺乳類ゲノム機能に大きな影響を与えていた事が明らかに出来たと考えている。
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Biochem. Biophys. Res. Commun 346・1
ページ: 276-280
Biochem. Biophys. Res. Commun 349・1
ページ: 106-114
BIONICS 3・6
ページ: 56-60
ブレインテクノニュース 116
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実験医学増刊 24・8
ページ: 152-157
科学 77・1
ページ: 87-92
PLoS Genetics (in press)