研究概要 |
われわれが同定したインプリント遺伝子Peg10は哺乳類にのみ特異的に存在するレトロトランスポゾン由来の遺伝子であり、これが胎盤形成に必須の機構をもつことを報告してきた.本年度は、同じレトロトランスポゾンに由来するインプリント遺伝子であるPeg11/Rt11もまた、後期の胎盤機能において重要な機能を果たすことを報告した(Sekita, et. al. Nat Genet 2008)。Peg11/Rt11は胎盤の中心的な機能である母親と胎児の栄養・ガス交換を行なう胎児毛細血管の維持に必須の機能を果たし、この遺伝子の欠失は胎児毛細血管の異常による胎児期後期の成長遅延や致死を引き起こす。また、この遺伝子の過剰発現は胎児毛細血管拡張という異なる異常により、新生児致死の原因となる。また、ヒトPEG11/RTL1が染色体14番父親性・母親性2倍体の主要原因遺伝子であることを、国立成育医療センター緒方部長グループとの共同研究で明らかにした(Kagami and Sekita, et. al. Nat Genet 2008)。 哺乳類の3グループ(卵生の単孔類、胎生の有袋類と真獣類)のPEG10領域のゲノム解析を行ない、この遺伝子が胎生哺乳類にのみに存在することを明らかにした。これは胎盤の起源にこの遺伝子が重要な寄与を果たしたことを意味している。また、有袋類におけるPEG10のインプリンティング解析から、この領域のインプリンティング制御の原因がレトロトランスポゾンの挿入であることを明らかにした(Suzuki, et. al. PLoS Genet 2007)。 レトロトランスポゾンの哺乳類の進化への影響の解析のため、Peg10やPeg11/Rt11と共通のレトロトランスポゾン(sushi-ichiレトロトランスポゾン)に由来し、哺乳類特異的に存在する他の遺伝子についても、同様なノックアマウス解析による機能解析を進めている。
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