研究概要 |
変化する光環境下で光合成反応の効率を高めるため、酸素発生型光合成電子伝達系の2つの光化学系(PSIとPSII)の構造と機能はダイナミックに変化する。本研究では、PSIとPSII複合体の構造とPSIとPSIIの光エネルギーによる励起のバランスを最適化するステート遷移とそれに伴う直鎖型・循環型電子伝達系の調節、光化学系の分子集合,光阻害により引き起こされる光化学系の代謝回転、などの分子機構に注目して進めた。本年度に得られた結果は;(1)ステート2状態でPSI複合体に安定に結合するアンテナ複合体LHCIIが5コピー存在し,そこに約70クロロフィル存在し、吸収された光エネルギーはPSI反応中心へ移動し、集光機能を果たしていることを示した。(2)ステート遷移に伴ない,電子伝達活性も直鎖型と循環型の間を切り替わる。本研究ではステート2状態でPSIとシトクロムb_6f複合体が超分子複合体を形成し、部分的な循環型電子伝達反応活性をもつことを初めて示した。(3)PSI複合体の分子集合において,その分子集合中間体が葉緑体にコードされるYcf4を含む大きな複合体と結合することにより,分子集合が効率化される分子機構を明らかにした。このYcf4複合体はPSI複合体の分子集合において足場タンパクに相当する機能を果たしていると考えられる。(4)PSI複合体の結晶構造解析を進めた。複合体の精製方法を改善し,これまでにより結晶の質を改善することに成功し,10Å程度の分解能を示すX線回折が得られた。しかし,本格的な構造解析を進めるに、結晶の質を高める必要がある。(5)PSIIの構造と機能のダイナミクスに関与する小型のサブユニットPsbTとPsb30がPSIIの構造と機能のダイナミクスに重要な役割を果たしていることを示した。
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