研究概要 |
現在、神経因性疼痛に苦しむ患者数は世界で1500万人に達する。我々は「脊髄内ミクログリアの異常な活性化と、そこに発現するATP受容体サブタイプP2X4の刺激により脳由来神経栄養因子(BDNF)が放出され、BDNFが後角ニューロンに働いて神経因性疼痛を引き起こす」ことを発表した(Nature424,778-783,2003;Nature,438,1017-1021,2005)。本研究では、グリア細胞がいつ、どこで、どのようにして神経損傷情報を受け取り、その結果何を介して、痛み情報伝達を変調させ、神経因性疼痛を引き起こすのかを明らかにする。本年度は次のことを明らかにした。(1)末梢神経損傷後に起こる脊髄後角でのミクログリアの活性化は、まず突起の退縮と細胞体の肥大化が起こり、その後に細胞周期へと再突入して細胞増殖を起こすと考えられた。また、細胞周期のG1期からS期への移行をミクログリアのLynチロシンキナーゼが制御している可能性も示唆された。(2)神経損傷後、脊髄内でフィプロネクチンの産生が増加し、その後、フィブロネクチン/インテグリン系を介して脊髄内ミクログリアのP2X4受容体発現増加が引き起こされ、アロディニア発現につながることを明らかにした。このアロディニアの発現にMEK-ERK経路およびPI3K-Akt経路およびMEK-ERK経路が関与することが示唆された。(3)ミクログリアP2Y6受容体は神経因性疼痛に関与すると共に、貪食能にも深く関与することを明らかにした(Nature,446,1091-1095,2007)。
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