【背景】 腹膜播種に対する腹腔内への抗がん剤の直接投与は有用な治療法であるが、近年開発されてきている抗体医薬品に注目した検討はほとんどされていない。本邦において、胃がんに対する標準治療で用いられるトラスツズマブ(抗HER2ヒト化モノクローナル抗体)においてさえも、十分な検討がされているとは言えない。 【目的】 腹膜播種に対するトラスツズマブ腹腔内投与の有効性およびトラスツズマブの体内動態を明らかにする。 【当該年度に実施した研究の成果】 NCI-N87細胞をヌードマウスの腹腔内に移植し、トラスツズマブ投与の治療効果を評価した。その結果、トラスツズマブを静脈内投与するよりも、腹腔内投与した方が腹膜播種の抑制効果が高いことが示された。次に、腹膜播種が高度に進行した状態でトラスツズマブ投与を行い、生存期間を解析した。その結果、予想に反して生存期間は腹腔内投与群よりも静脈内投与群の方が長い傾向が得られた。腹膜播種は患者のQOLを大きく損なうがその一方で直接の死因とはなりにくいと考えられている。(1)腹膜播種が高度に進行した状態ではがん細胞の他臓器への転移も進行しており、生存期間に対しては腹膜播種以外の転移巣の影響が大きいこと、(2)腹膜播種が高度に進行している状態では腹腔内投与したトラスツズマブが腹腔内のがん細胞にトラップされる割合が多くなり他臓器への移行性が低下すること、この2つの結果として生存期間が逆転する現象が発生すると推測された。これよりトラスツズマブの投与経路については腹腔内と静脈内両方からの投与が有効である可能性が示唆された。現在、腹膜播種が高度に進行する前にトラスツズマブを投与した場合の生存期間を解析中である。 血清中のトラスツズマブ濃度の測定系はすでに確立されている。血清中トラスツズマブ濃度の測定系の腹水への転用について、現在測定条件を検討中である。
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