研究実績の概要 |
HERVとは、外来性ウイルスが霊長類進化の過程で長い年月を経て内在化した配列である。HERVが今日まで維持されているのは進化の過程で宿主の存続に有利に働くためと考えられ、この発現や免疫応答が様々な疾患の発症や進展への関与も示唆されている。しかし、現時点のHERV発現と疾病との因果関係は不明である。研究代表者はその存在意義や生理的な役割を探るために、合成ペプチドを抗原とした抗Syncytin-1抗体ELISAを開発したが、ランニングコスト軽減のために精製Syncytin-1蛋白質を用いたELISA系の確立を本研究課題の目的とした。 蛋白質精製を行う上で重要となるのは発現誘導、蛋白質の可溶化、精製の3ステップである。Syncytin-1蛋白質はSurface Unit(1-317aa)とTransmenbrane Unit(318-538aa)の2のユニット構造を持つことが報告されている。このため研究代表者はHisタグを付した2種類(SU, TM)の蛋白質断片を発現するプラスミドを用いて精製を試みた。初めに、SDS-PAGEにより蛋白質の発現量を確認した。この結果、SU及びTMいずれも発現量は不安定であり、実験日によって差があることが確認された。またこれらは難溶性を示し、8%Urea添加下で可溶化が確認された。続いてニッケルアガロースおよび脱塩カラムによる精製を試みたが、精製過程でカラムに大半が吸着し、十分量の精製ができないことが判明した。また、Urea濃度が高すぎるためにELISA用プレートに固定化条件に適さないことが明らかとなった。 これらの結果から、発現誘導、可溶化、精製すべてのステップで改善する必要があることが明らかとなった。今後はSyncytin-1蛋白質用いたELISAの確立には新たな界面活性剤の選択、蛋白質部位選択など条件検討を行う予定である。
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