感電死傷事故防止に向け、人体内の電流経路の詳細を明らかにすることを目的として、CTおよびMRIにより取得した人体数値データを直接用いる数値解析手法の検討が進められている。しかし共役勾配法による線形方程式の反復解法において膨大な計算量を必要とすることや、悪収束性の観点から計算が困難である。そこで本研究では、Scaler Potential Finite Deference : SPFDに基づく人体内の数値電流密度解析の高性能化を目的として並列幾何マルチグリッド法を実装し収束性改善を試みる。 SPFD法を用いた数値人体モデルの離散化として、数値人体モデルのボクセルの重心に設置されたノードにキルヒホッフの電流則とオームの法則を用いて電圧Vを未知数とする方程式を適用することで全ノードの未知数Vによる大規模連立方程式を作成し解析対象とした。幾何マルチグリッド法の実装は、ボクセルの再分割で得られる2レベルのマルチグリッドを再帰的に多段階に適用するV-Cycleマルチグリッドで作成した。粗いグリッドの作成には、数値人体モデルを構成する1辺2mmのボクセルに対して、ボクセル幅を2倍にすることで構築し、SPFD法で用いる各グリッドの導電率は粗いグリッドに対応する細かいグリッド上の導電率の平均値を用いた。幾何マルチグリッド法のスムーザーとして用いるガウスザイデル法の並列化としてマルチカラーオーダリングを適用した。さらにメニーコアCPU環境への最適化としてOpenMPによる並列化を施した。 性能評価として成人男性数値人体モデル(1辺2mmのボクセル約800万個)を用いて、メニーコア計算機(Core数 : 64)上で実験を行い、従来手法であるブロックICCG法と比較して収束履歴を急峻に落とすことができた。さらに計算時間を約7割近く削減させることができた。これにより高い性能改善結果を得られることを確認した。
|