研究課題/領域番号 |
18H00602
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 彰 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (80535097)
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研究分担者 |
秦 正樹 京都府立大学, 公共政策学部, 准教授 (10792567)
若松 良樹 学習院大学, 法務研究科, 教授 (20212318)
清水 和巳 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (20308133)
坂本 治也 関西大学, 法学部, 教授 (30420657)
善教 将大 関西学院大学, 法学部, 准教授 (50625085)
宇田川 大輔 阪南大学, 経済学部, 准教授 (60434221)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 実験政治哲学 |
研究実績の概要 |
本研究では、どのような分配的正義上の物語を設定し、それが人びとにどのように受け止められるのか、あるいは人称的観点の相違を形作る刺激をいかに作るのかが課題となる。そのことをふまえ、二人称班、三人称班でそれぞれサーベイ実験を実施し、有意義な結果が得られた。 (1)二人称班 二人称班では、人びとが社会規範の影響を受けて、自らが正しいとする判断の表明を控え、世間迎合的な選好を形成するメカニズムを明らかにすべく、投票権を付与する若者の年齢を引き下げることについてのサーベイ実験を実施した。その結果、バイアスが顕著に検出された。すなわち、若年層の投票権付与に代表されるセンシティヴなイシューの場合、人びとが自らが正しいとする選好の表明を控える傾向があることがわかった。なお、その結果をふまえて、"Sensitivity Bias in the Preferences Regarding Youth Suffrage: Evidence from a List Experiment in Japan"と題する論文を投稿準備中(完成目前)である。 (2)三人称班 三人称班では、事態を評価対象とする分配的正義のパターン原理のうち、どのモデルがより直観適合的かについてサーベイ実験をおこない、その適合性をAICに基づくモデル適合性によって測定する方法について検討した。その結果は、モデル適合性をふまえたパターン原理の検証の方法論上の有意義性を示すものであった。なおその結果をふまえて、"Real Reflective Equilibrium and Model Selection: A Methodological Proposal from a Survey Experiment on the Theories of Distributive Justice"と題する論文を執筆し、投稿した(現在審査中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍を受けて、サンプルの偏りを避けるべくサーベイ実験を延期したことにより、2回にわたって繰越をおこなったが、その分、2つの実験とも周到に準備をおこなうことができ、有意義な結果を得ることができた。 上記「研究実績の概要」でも述べたように、2つの実験で得られら有意義な結果については、それぞれ論文化し、ひとつは国際誌に投稿する最終段階(二人称班)、もうひとつは国際誌(哲学におけるトップジャーナル)に投稿・審査中(三人称班)になっている。したがって、2020年度に予定していたサーベイ実験はやむを得ない理由で順延したものの、その後、万難を排するかたちで2つの実験をそれぞれの班で実施したことにより、国際的な研究成果として報告できるあと一歩のところまで来ている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度以降の研究では、サーベイ実験の結果を総括し、2020年度に繰り越した実験を含めてそれまでの実験によって得られた知見が実験政治哲学、ひいては政治哲学にいかなる意義をもたらすのかについて検討する。 具体的には、繰り越した実験によって新たに得られた知見がどの理論のどの前提、規範的推論あるいは規範的構想に、どのようなインプリケーションを与えるのかについて検討し、人称的観点(二人称および三人称)を軸に、いかなる正義と道徳の価値体系がそれぞれの価値の適正な使用を促すのかについて考察を加える。 以上の考察をふまえて論文を複数用意したうえで、2021年度以降、とくに2022年度に、それらの論文を国際誌に投稿する予定である。
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