研究課題/領域番号 |
18H00603
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 泉 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (50235933)
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研究分担者 |
榊原 哲也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (20205727)
一ノ瀬 正樹 武蔵野大学, グローバル学部, 教授 (20232407)
古荘 真敬 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (20346571)
板橋 勇仁 立正大学, 文学部, 教授 (30350341)
納富 信留 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (50294848)
富山 豊 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (60782175)
野村 智清 秀明大学, 学校教師学部, 講師 (90758939)
平岡 紘 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (00823379)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 哲学会 / 『哲学雑誌』 / 近代日本哲学 / 東京学派 / 井上哲次郎 / 桑木厳翼 |
研究実績の概要 |
研究初年度にあたる2018年度は、次の四つの作業を実施した。 1/『哲学雑誌』のアーカイヴ化とウエッブ公開に関して、(キーワードを付した)総目次の作成などの基礎的作業を概ね終えることが出来た。基礎的資料となる『哲学雑誌』のデジタル化に関しては、既に或る時期までのデジタル資料を有している国立国会図書館との協議を行い、著作権の問題をクリアして、2019年度には研究分担者間で共有することが出来る見込みである。 2/(特に戦前における)西洋哲学の導入の模様に関して、上記基礎作業をもとに分析を行い、10年ごとの特色の解明を遂行することが出来た。その個別の事例として、井上哲次郎と桑木厳翼の仕事について集中的な検討を行った。また、戦前の哲学(史)研究の水準と特色を解明するべく、スピノザ、ライプニッツ、ヘーゲルをモデルに検討を行った。 3/人文学における哲学という学問の教育と研究の制度化に関して、1/の基礎作業をもとに、哲学の自立化の過程を軸に、東京大学文学部の学科や講座の編成という制度上の変革と併せての分析の基礎作業を終え、戦後に至るまでの教員の配置と講座の編成の概ねを把握するに至った。 4/戦後日本を代表する哲学者たちの哲学の系譜学的探求に関して、研究代表者鈴木は廣松渉について、研究分担者納富は出隆についてそれぞれ検討を行った。他の研究分担者は、当初の予定通り担当の哲学者の思索の検討を進めた。 以上の研究を進めるために、概ね毎月一回のビジネス・ミーティングと計四回の研究会を行い、実務作業の進展を確認するとともに、それぞれの研究の相互検討を行った。さらに、「東京学派」をめぐる中島隆博東京大学教授を研究代表者とする科学研究費補助金による研究との共同シンポジウムを開催し、東京学派・東京スタイル・東京アリーナといった東京大学を中心とする哲学運動についての見通しを獲得することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
『哲学雑誌』の総目次の作成が終了し、年代別の掲載論文の傾向に関する分析を概ね終えることが出来たのは大きな収穫であった。また、東京大学文学部の講座編成の模様や教員の配置に関する基礎作業をこちらも概ね終えることが出来たのも、本研究課題の基礎的部分の研究が首尾よく進めることが出来たと自己評価している。 また、戦前の哲学史研究の水準に関する研究、戦後日本を代表する哲学者たちの系譜学的探求のいずれに関しても、モデルケースとしての研究を遂行し、一定の成果を得られたと考えている。 さらに、『哲学雑誌』の総目次の作成とその検討を通して、西田幾多郎と高橋里美の間で交わされた論争を始めとする戦前の人文学における幾つかの重要な論争が『哲学雑誌』を発端ないしは論争の場として行われたことの重要性が強く自覚されたことも大きかった。つまり、『哲学雑誌』をある種の<アゴーン>の場として捉え返すという視点であり、この視点から特に戦前の『哲学雑誌』を読み直すという研究の視点が新たに得られたのであり、これは本研究の研究内容の拡大・深化を可能にするものと評価している。 ついで、『哲学雑誌』の内容やその影響を、『明六雑誌』から『思想』や『哲学研究』などに至る戦前に刊行された他の哲学・思想系の雑誌のそれと対比するというメディア論的な問題設定の重要性が浮上し、この点の検討を既に始めている。 そして最後に、哲学会と『哲学雑誌』を舞台に形成されてきた近代日本哲学の(京都学派とは異なる)系譜を総体としてどのように位置づけるかという最重要の論点に関して、東京学派・東京スタイル・東京アリーナ等々の呼称のもとその内実を探求する視点が得られたことは極めて大きな研究成果であった。 以上から、当初の計画以上に新たな重要な論点・視点が獲得されたので、当初の計画以上に進展している、と自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、次の諸点に関して特に焦点を集めて作業・研究を進める。 1/基礎的資料となる『哲学雑誌』のデジタル化に関しては、或る時期までのデジタル資料を有している国立国会図書館との協議を早急に進めて著作権の問題をクリアし、2019年度には研究分担者間で基礎的資料を共有することにしたい。2/(特に戦前における)西洋哲学の導入の模様に関して、個別の事例として、井上哲次郎と桑木厳翼以外の代表的な哲学者、ならびに戦前の哲学(史)研究の水準と特色を解明するべく、スピノザ、ライプニッツ、ヘーゲル以外の対象を網羅的に検討する。3/人文学における哲学という学問の教育と研究の制度化に関して、既に宗教学に関しては検討を着手しているが、宗教学史の専門家との共同研究を始めて加速化するとともに、倫理学と社会学に関する研究を今年度は進めたい。4/戦後日本を代表する哲学者たちの哲学の系譜学的探求に関して、当初の研究計画通りに研究の対象を拡大して進める。 その他、<アゴーン>の場としての『哲学雑誌』、メディア論的視点、哲学会と『哲学雑誌』の哲学の総体としての特色づけ等々、新たに獲得された論点・視点を、以上の研究と有機的に結びつけながら研究を進めるが、その際、その具体的な方策として、当初計画されていた通常の研究やシンポジウム以外に、今年度から本学人文社会系研究科の大学院の授業として開講した「多分野交流演習」(講義題名「戦前の『哲学雑誌』を読む」主査:鈴木)をも実質的な共同研究の場として位置づけ、研究分担者以外の本研究科の他専攻の教員や院生の協力をも仰いで研究の拡大・深化を進めることにした。
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