研究課題/領域番号 |
18H00609
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
小野 基 筑波大学, 人文社会系, 教授 (00272120)
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研究分担者 |
稲見 正浩 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (70201936)
師 茂樹 花園大学, 文学部, 教授 (70351294)
後藤 康夫 龍谷大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (90537052)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 因明正理門論 / ディグナーガ / インド仏教論理学 / 因明 / 過類 / 『集量論』第6章 / 因明入正理論 |
研究実績の概要 |
4つの研究班を構成し、各々が『因明正理門論』をインド側と東アジア側から考究した。 小野班(小野、室屋、渡辺)では、『集量論』第6章とその註釈の研究を継続し、『正理門論』の『集量論』との比較研究に従事した。『正理門論』との多数の並行箇所を含む『集量論』第6章の梵文再建を70%程度完了し、また『論軌』の断片の英訳を行った。また、初期仏教論理学にとって重要な概念「負処」についてインド仏教論理学の後代の論書『ヴァーダニヤーヤ註』に関する文献学的研究を開始した。また、『正理門論』が体系化した「過類」の概念の後代への影響を探る手始めとして、インド仏教中観派における「過類」の取り扱いを検討した。稲見班(稲見、護山)は、近世の因明文献で公刊されている幾つかの文献(寶雲疏など)を取り上げて内容を精査するとともに、龍谷大学図書館所蔵の因明文献の稀覯本を調査し、近世の浄土真宗系の学者による『正理門論』研究の再興の様子を明らかにする手掛かりを探った。師班(師、護山)は、引き続き平安初期頃に活躍したと目される日本の学僧・沙門宗の『因明正理門論疏』の解読研究に当たった。同書が唐時代の中国の註釈の断片を豊かに含み、また様々な興味深い情報を提供し得るものであることが、ますます明らかになってきた。最後に後藤班(後藤、蜷川)は、善珠・蔵俊の『因明入正理論』に対する大部の註釈のデータベース化の準備を進め、それらの引用する『正理門論』およびその註釈書の断片の蒐集にあたった。 これら各班の研究は5月と1月に開催された研究集会でその状況を報告し合い、また国際ワークショップを通じて深化させるとともに、各研究者がそれぞれ研究成果を論文として公表し、また学会での研究発表に結実させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2回の研究集会、および3回の国際ワークショップを開催するとともに、各研究者がそれぞれ論文を公表し、また国際学会・国際ワークショップ等での研究発表を行い、研究を積極的に推進することができた。 小野班(小野、室屋)は、4月末に台湾の国立政治大学でのシンポジウムに参加し、『因明正理門論』につながる漢訳文献として重要な『如実論』とヴァスバンドゥの論理学書『論軌』の比較検討を行った。5月には最初の全体での研究集会を開催し、プロジェクト全体の目標と役割分担を確認した。 5月~1月には、後藤班(後藤、蜷川)が窺基の『因明入正理論疏』とそれに対する日本の善珠・蔵俊の註釈書のデータベース作成を開始し、その中に現れる『因明正理門論』とその諸註釈の断片の蒐集に当たった。また師班(師、護山)は引き続き沙門宗の新出註釈書の解読に従事した。 さらに1月末に稲見班(稲見、護山)を中心にした2回目の全体研究集会を京都・龍谷大学で開催し、同大の桂教授の協力の下で同大図書館に所蔵されている近世の『因明正理門論』の註釈書写本の調査を行った。従来未解明の幾つかの重要な註釈書の存在を確認し、研究への足掛かりを作ることができた。 年度末の3月には、海外から3人の研究者(台湾国立政治大学の林鎮国教授、カナダ・マッギル大学のブレンダン・ギロン教授、オーストリア科学アカデミーの室屋安孝博士)を迎え、小野班のメンバーを中核に、『集量論』第6章、『ヴァーダニヤーヤ註』、および『方便心論』『如実論』『掌珍論』に関する3種類のワークショップを開催し、特に最後の国際ワークショップでは桂紹隆教授、林鎮国教授、ブレンダン・ギロン教授を始めとする国内外の著名な研究者の参加も得て、『因明正理門論』以前の初期の仏教論理学の展開に関して有益な議論を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は以下の方針で研究を継続する。 まず小野班(小野、室屋、渡辺)では、『集量論』第6章とその註釈の研究を継続し、オーストリア科学アカデミーとの共同研究による『集量論疏』第6章の梵文校訂を終了し、引き続き出版の準備に当たる。また『集量論』第6章の梵文再建を完成させる。さらに、それらの成果に基づきながら、『因明正理門論』後半の過類段の和訳を進める。『ヴァーダニヤーヤ註』に関する文献学的研究を継続し、さらに『如実論』の和訳プロジェクトを開始する。稲見班(稲見、護山)は、寶雲疏に関して具体的な箇所を取り上げて研究する。また、今年度遂行した龍谷大学図書館の調査に引き続き、他の諸大学、博物館等が所蔵する因明文献の調査を継続する。師班(師、護山)は、引き続き沙門宗の『因明正理門論疏』の解読研究に当たるとともに、中国撰述の因明文献の日本古写本を調査する。また、稲見班をサポートして近世因明文献の調査に当たる。後藤班(後藤、蜷川)は、新たに蜷川を研究分担者とし、善珠・蔵俊の『因明入正理論』に対する註釈のデータベース化を急ぐ。引き続きそれらの引用する『正理門論』とその註釈書の断片の体系的蒐集にあたる。 これら各班の研究は5月と12月(予定)に研究集会を開催し、成果を共有する。また、3月に国際ワークショップを行う。各研究者は、論文執筆、学会発表を通じ、成果の公表に努める。
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