本研究は『阿毘達磨集論』(Abhidharmasamuccaya)に対する『カダム全集』所収のチベット撰述注釈書を研究対象とし、電子テクスト化し、XMLによる構造化記述を目指すものである。 2021年度は、チベットの学僧であるチョンデン・レルティとションヌー・ジャンチュプの注釈について、データ入力を完了し、またXMLによる基本的なタグ付け作業を終了した。その際に、特にチベット文献に特有のサチェーとよばれる科文の構造を分析する手法について、具体的な検討を行った。また、上記のデータをウェブサイト上で公開する準備を進め、一部をすでに公開している。 また、2020年7月5日に開催された日本印度学仏教学会(オンライン開催)において、「『阿毘達磨集論』の伝承-インドからチベットへ、そして過去から未来へ―」と題してパネル発表を行った。代表者である高橋(東京大学)が全体の統括をつとめ、分担者である根本(広島大学)が総評を行い、東京大学関係者1名、広島大学関係者1名のほか、国内外から3名(うち2名は外国籍)の発表者が登壇し、『阿毘達磨集論』に関する文献学的研究の最先端の成果を紹介した。なお、これに先立ち、2020年6月15日に事前の研究会合を開き、情報交換を行った。 さらに上記のパネルの成果を、『『阿毘達磨集論』の伝承-インドからチベットへ、そして過去から未来へ―』と題して、書籍として2021年3月21日に出版した。パネルにおいて個別の研究成果を発表しなかった高橋、根本も、この書籍において研究成果を掲載している。またウェブサイトで公開するためのデータ構造についても、この書籍で紹介している。 『阿毘達磨集論』に対するチベット撰述の注釈書は「カダム全書」に11本収録されているほか、著名なチベット学僧によるものが複数、現存している。上記の研究成果を踏まえて、研究範囲を広げていくことを検討している。
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