研究実績の概要 |
コロナによる渡航制限により、中心課題であるナポリ公文書館における現地調査がR.2年度、R.3年度とも不可能となってしまった。さらに、関連するイベント類もすべて延期となり、従って、本期間中においてはR.1年度末までに行っていた公証人史料調査成果をまとめ論文執筆、国内学会での発表、国内での調査、研究に限定せざるを得なかった。以下、その活動の主な概要を記す。
R.2年度においては、柏崎市の黒船館において、長崎・出島で上演された日本初の西洋世俗音楽作品となる川原慶賀画による舞台図調査(《乳絞娘と二人の狩人》、1820)を行った。これは洋楽受容、18世紀ナポリに学んだ作曲家ドゥーニの作品の受容、そしてナポリ発の音楽の国際的広がりを端的に示す好例となり、既にR.1年度、ドゥーニの生地マテーラで開催されたイタリア音楽学会大会において発表していた本テーマについて、今後さらに作品校訂等へと展開させる重要な基礎調査となる。R.3年度においては、査読論文「ナポリ王国南部地域における音楽劇の実態解明にむけて ー1777-78年, カラーブリアへの喜劇オペラ巡業契約を中心事例として明らかにする”定期巡業ルート”の存在の同定と ,それを担った”アーティスト”の実像」の出版を行った。概要は以下の通り。
①18世紀のイタリア南部地域の音楽劇の上演歴を都市ごとに整理し、宗教的世俗作品である「聖史オペラ」が大きな割合を示していたことを提示。②”地方”の音楽劇が誰によって実施されていたのか、ナポリ公証人文書を基に、1777年にカラーブリアに巡業したナポリの”音楽家陣”、各々のパーソナルヒストリーを解明。③ナポリの興行師「F.ドルツィテッリ」が、カラーブリアの田舎巡業に乗り出した経緯と詳細を、1770-90年のナポリ・フィオレンティーニ劇場の興行師陣営全容解明と共に提示。これは当該領域においては世界初の成果となる。
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