研究課題/領域番号 |
18H00626
|
研究機関 | 聖心女子大学 |
研究代表者 |
飯野 りさ 聖心女子大学, 文学部, 特別研究員(PD) (80758756)
|
研究分担者 |
谷 正人 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (20449622)
米山 知子 京都外国語大学, 外国語学部, 非常勤講師 (50511127)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 音文化 / 中東 / 少数派 / 音楽 / クルド |
研究実績の概要 |
イラン、トルコ、アラブ諸国でこれまで調査研究を行ってきた三名の研究者が参加している本研究は、中東少数派の音文化の解明を目的としている。少数派や非主流派の音文化・音楽はときとして多数派や主流派との区別が難しい。本研究では各研究者がこれまで培ってきた知識や経験を活かし、多数派と共有している部分を認めつつも共有していない部分への理解を深めたいと考えている。こうした課題を遂行するために、本研究は三つの部分から成り立っている。第一は代表者と分担者二名の個別の調査研究、第二は年に一度行う研究会、第三に海外からの演奏家や研究者の招へいである。 個別の研究としては、トルコ、シリア、イラク、イランの国境をまたがって居住している人々、主にクルド人の音楽研究があり、イランでは谷が、トルコ・シリア・イラクのそれに関しては飯野が担当する。トルコで少数派/非主流派であるアレヴィー教徒に関しては、オーストラリアのディアスポラ集団を米山が担当している。平成30年度が一年目であったことから、業績には上記の目標は必ずしも反映されていないが、上述地域の少数派の一つであるシリア正教徒の音楽研究をこれ以前から行っている代表者の飯野による学会発表等は、これから議論を深めるための序論的な内容となっている。 いまだ音楽研究としては議論の深まっていないテーマではあるが、7月下旬に行われた研究会には予想を超える数の参加者があり、関心は低くないことが明らかになった。12月上旬には、シリアの古都アレッポを代表するウード奏者のムハンマド・カドリー・ダラール氏と他二名を招へいし、東京大学と神戸大学でレクチャー・コンサートを行った。同氏の演奏家としての実績と経験に裏打ちされた演奏内容は、専門家の間で関心を集めた一方で、一般参加者にも強い印象を残した。東京大学での公演には予想を超える100名以上の参加があった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように、研究会および招へい事業に関しては計画通りであり、予想以上の成果が上がっている。しかし、本研究で最も重要かつ根幹となるのは各研究者の個別の調査研究であり、本欄では主にその進捗状況を述べることとする。 トルコ・シリア・イラクのクルド音楽を主に担当する飯野は10月にトルコ南東部(ミディヤットとその近郊)、3月にイラクのクルディスタン地域政府地区(エルビル市)で調査を行った。かつては少数派言語が禁止状態であったトルコでは、今日、少数派言語による音楽活動も公的にみられるようになった。10月の調査は、南東部の都市ミディヤットで行われた多宗教・多言語文化のための音楽フェスティバルであり、そこでは県都であるマルディン市には多宗教・多言語を自任する民謡合唱団があることも明らかになった。3月の調査では、シリアのアフリーン出身でアレッポから避難・移住しているクルド系楽器職人M氏に協力を乞うとともによく知られている歌のレパートリーをご指導いただいた。 ディアスポラのアレヴィー教徒を対象としている米山は、9月と3月にオーストラリアのメルボルンで調査を行った。同市にはアレヴィー関係の団体があり、同団体の活動で聞き取り調査を行い今後の調査のための素地を作った。その一方でトルコ語話者のアレヴィーだけでなくクルド語話者のアレヴィーも活動していることが明らかになった。イランのクルド音楽が担当の谷は、12月から1月にかけてテヘランでクルド系演奏家たちに指導を受けるとともにインタヴューを行っている。以上のように個別研究の状況は第一年目としては好ましいスタートを切っており、第二年目へとつなげる予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の招へい事業は、時期としては11月から12月上旬を予定し、スウェーデンからシリア正教徒の歌手・音楽家を招く計画である。昨年度は第一年目でかつ比較的知名度の高いアラブ音楽が対象であったことから、上述のように関心も高かった。しかし、シリア正教徒やシリア正教会は、本研究で中核的に扱っているクルド人よりも知名度は低いことから、昨年度は行わなかった紹介的な内容のパンフレットの作成やミニ演奏付き講演会なども考えている。本研究も二年目を終える来年度(令和二年度)は、イランからの演奏家の招へいを現在、計画している。その一方で、トルコからアレヴィー音楽の研究者でかつ著名な演奏家である人物の招へいも視野にいれているが、再来年度(令和三年度)の可能性も考えている。 今後の重要な研究は、個別に行っている調査やそれに基づく考察をいかに共有し、問題意識を高めていくかである。年に一度の研究会を今年度は7月上旬に行う予定であり、公開の研究会(第一日目)だけでなく、本研究参加者三名のミーティングを第二日目に行い、一年目の調査結果を研究会よりもさらに細かく共有する場としたいと考えている。各人でさらに渡航調査等を継続し、その一方で論文執筆および学会での発表等で調査結果の公表を行う予定である。
|
備考 |
谷正人、企画展『旅する楽器:南アジア、弦の響き』の「打弦楽器セクション」担当、国立民族学博物館、2019年2月~5月。 飯野りさ、単著『アラブ古典音楽の旋法体系』(2017年)が第35回田邉尚雄賞受賞、2018年11月。 飯野りさ、レクチャー・コンサート『アレッポの伝統で学ぶアラブ旋法』の企画・実施・解説等、東京大学および神戸大学、主催:基盤(B)「中東少数派の音文化に関する研究」、2018年12月。
|