研究課題/領域番号 |
18H00631
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
岩佐 光晴 成城大学, 文芸学部, 教授 (10151713)
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研究分担者 |
小澤 正人 成城大学, 文芸学部, 教授 (00257205)
能城 修一 明治大学, 研究・知財戦略機構, 客員教授 (30343792)
安部 久 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (80343812)
西木 政統 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 研究員 (90740499)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 清凉寺釈迦如来立像 / 東寺兜跋毘沙門天立像 / 小原二郎 / 魏氏桜桃 / 樟 / 楠木 / 柏木 / 中国林業科学研究院木材工業研究所 |
研究実績の概要 |
平成30年(2018)1月に東京国立博物館に寄贈された「小原二郎氏旧蔵木彫像用材調査標本」の再調査を行った。これは、日本で初めて木彫像の科学的調査(顕微鏡調査)による樹種同定を行った小原二郎氏(1916~2016)が、生前に作成した膨大な識別用プレパラートの中から88枚を選定し自ら保管していたものである。再調査の結果、小原氏が魏氏桜桃に同定した京都・東寺の兜跋毘沙門天立像と京都・清凉寺の釈迦如来立像の樹種が、クスノキ科の樹種であることが判明した。しかも、日本に一般に見られる樟ではなく、中国に植生し、日本には植生しない楠属の樹種(楠木など)である可能性もある。これは、中国や日本の木彫像の用材観を大きく変える発見といえ、調査結果の概要と今後の展望を報告書としてまとめた。執筆は研究代表者の岩佐、研究分担者の能城、安部、研究協力者の金子、藤井が行った。本報告書は2019年4月刊行の『MUSEUM』679号に掲載されることとなった。 その他国内では、2018年6月17日に栃木県鹿沼市所在の日吉神社の神像彫刻24躯の調査を実施した。 海外では、2018年12月26日~29日に中華人民共和国の北京市に赴き、故宮博物院と国家博物館に展示されている宋時代から清時代にかけての木彫像を観覧し、使用樹種に関する基本情報の収集を行った。さらに中国林業科学研究院木材工業研究所を訪れ、魏氏桜桃、楠木、柏木に関する情報収集を行なうとともに、同所研究員と意見交換を行った。 2019年3月25日~29日にベトナム社会主義共和国に赴き、ホーチミン市とハノイの歴史博物館で、6~7世紀の木彫像4躯の調査を実施した。本体から台座までを広葉樹の一材から彫出する長身形の姿は奈良・法隆寺の百済観音立像と関連で注目され、像及び樹種に関する情報を収集した。調査にはハノイの林業研究所の研究員が同行し、使用樹種に関して教示を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、「小原二郎氏旧蔵木彫像用材調査標本」の再調査により、従来、魏氏桜桃が使用されているとされていた東寺の兜跋毘沙門天立像と清凉寺の釈迦如来立像の樹種がクスノキ科の樹種であることが判明するという大きな成果を上げることができた。さらにその成果を調査報告書としてまとめ、刊行の段階まで至ることができた。 また、中国とベトナムの木材学の研究員との交流によって、当該地域での木彫像の調査を実施していくための足場を築くことができたといえる。今後の調査環境を整えて行く上で有効であったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
東寺の兜跋毘沙門天立像と清凉寺の釈迦如来立像の樹種がクスノキ科の木材であることが判明したことにより、今後の調査対象を中国の清代までの木彫像に広げ、中国の木彫像におけるクスノキ科の樹種の使用状況を把握する必要性が出てきた。 まず国内外における中国の木彫像の所在場所及び像そのものの基本情報を収集して、できるだけ詳細なリストを作成する必要性がある。 リスト作成後、まずは日本国内に所在する当該木彫像についてできるだけ実地調査を行い、調査範囲を徐々に中国から欧米の美術館、博物館に広げていく予定である。
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