研究課題
2021年度はコロナ禍のために海外調査を敢行することができなかったため、2022年夏に、2022年度新規科研(基盤B)と合わせてクレタ島(ギリシア)、カッパドキア(トルコ)で聖堂壁画の調査を行った。両地で撮影・測量した聖堂は多数に亙り、聖堂装飾プログラムは相互に複雑に連関しているため、その成果を本科研と2022年度新規科研の間で明確に分割することはできない。しかし本科研の趣旨に沿って言えば、南イタリア(プーリア、カラブリア)の12~14世紀の壁画と、カッパドキア(9~11世紀)の壁画の間に、重要な共通性を見出した。一方クレタ島(14~15世紀)の壁画は、南イタリアの同時代現象と言ってもよい。これらの関係性は、直接の伝播によるものなのか、首都コンスタンティノープルを介在しているのか、首都の作例が残っていないために具体的に証明は不可能である。首都コンスタンティノープルはオスマン帝国支配によって聖堂・壁画は破壊されてしまったが、写本挿絵は比較的よく残っている。南イタリア―クレタ島―カッパドキアという三角形の中央項として、コンスタンティノープル制作の写本挿絵を置くことによって、影響の経路がある程度解明できるのではないかと考えている。図像学的主題としては「キリスト昇天」を一つの鍵としたい。首都コンスタンティノープルの影響下にあったと考えられるバルカン半島の諸聖堂では、「昇天」は聖堂ベーマ(聖域)天井に描かれるのが定型であるが、南イタリア・カッパドキア両地ではアプシスに描かれる。さらに辺境とも言えるジョージアの岩窟聖堂にも「昇天」のアプシスが見出せる。本課題はビザンティン美術における「中央と辺境」の問題にも一定の成果があったと考える。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
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