研究課題/領域番号 |
18H00633
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
児嶋 由枝 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70349017)
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研究分担者 |
志邨 匠子 秋田公立美術大学, 大学院, 教授 (00299926)
宮下 規久朗 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (30283849)
秋山 聰 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (50293113)
谷古宇 尚 北海道大学, 文学研究科, 教授 (60322872)
益田 朋幸 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70257236)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | トレント公会議 / 大航海時代 / イエズス会 / キリシタン / かくれキリシタン / 殉教図 / 南蛮 / マカオ |
研究実績の概要 |
対抗宗教改革期(カトリック改革期)の宣教美術研究は1990年代以降、目覚ましい展開を遂げている。中南米美術をはじめとして、ムガール朝インドや東アジア、特にフィリピンと中国にも射程を広げた議論が進められているのである。一方、日本におけるそうした西洋宗教美術の受容に関しては、一定の時代に焦点をあてた研究が単発的に発表されてきた。科研費研究(基盤B)の主眼は、こうした状況をふまえ日本における宣教美術受容を国際的な文脈の中において包括的に考察することにある。そして、日本における西洋宗教美術受容の独自性、ひいては日本の外来文化受容にみられる独自性とその背景を明らかにすることを目指している。 2018年度は研究研究者各自が自身の課題に取り組むとともに、グループ全体で問題点や論点を共有することに焦点をあてた。以下3つが研究グループ全体でのとりくみであった。 1)7月21日に早稲田大学において、シンガポールのアジア文明博物館主任学芸員であるクレメント・オン氏を招いて公開研究会を開催した。オン氏は、自身が企画したアジアのキリスト教美術をテーマとした美術展(2016,アジア文明博物館)について議論をおこなった。同時に、研究代表者である児嶋が自身の研究の進捗状況を報告した。 2)9月14日から19日にかけて、研究分担者および協力者とともに長崎外海、五島列島、生月島、平戸島の調査を実施した。いまだ十分に研究されていない数多くの聖像や信仰具、そして聖地について調査を進めた。 3)3月22日に早稲田大学において研究会を開催し、お茶の水女子大学名誉教授で南蛮美術研究の権威である坂本満氏にお話いただいた。長崎や神戸、そしてシンガポールの研究者も参加し、活発な意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、研究グループ内におけると当該研究の問題や論点の共有と、各自の研究推進を計画していたが、おおむね実施することができた。日本においてはいまだ端緒にあるといえる同研究テーマについて、東南アジアの西洋美術受容を研究テーマとしているシンガポールのオン氏、および南蛮美術研究の権威である坂本氏を交えて議論することができたのは非常に有益であった。また、9月の長崎県内のキリシタン関連地域の調査においては、予想をはるかに超える充実した内容のキリシタンおよびかくれキリシタンの聖像や聖地について詳しく検討することができた。かくれキリシタンの末裔である松川隆治氏や生月島の館学芸員でかくれキリシタン信仰研究の第一人者である中園成生氏の協力を得て、いまだ知られていないかくれキリシタン遺物についても調査することが可能であった。一方、一年目の今年度、研究グループ内の研究者は各自で特に史料蒐集と研究の現状の把握につとめた。 しなしながら、その一方で、同研究のテーマの大きさと曖昧さが浮き彫りとなったことは否めない。16世紀中葉から19世紀中葉と約300年間を研究対象としているが、今後は各時代の何に焦点をあてるべきか明確にする必要がある。また、日本における西洋美術受容を東アジア全体の枠組みの中でとらえることの重要性と同時に、際限なく研究範囲を広げることの危うさも明らかとなった。 なお、研究分担者の多くが所属大学で重要な学務を担っていることにより、全員が顔を合わせることのできる日を設定することが極めて困難であったことは予想外であった。3月末の研究会は1月か2月に開催する予定であったが、各自の学務のために最終的に年度末に予定をずらすことを余儀なくされた。それでも全員が集まることは叶わなかった。
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今後の研究の推進方策 |
日本における西洋美術受容については従来、明治期の文明開化・欧化主義を基調にした政府主体の洋画導入を中心に議論されることが多い。そして、安土桃山時代から江戸初期における洋風画や江戸期の蘭画を対象とする研究は、いわば挿話のように個別事象として論じられる傾向にある。これに対し本研究は、16世紀から19世紀にかけての西洋宗教美術の受容とその変容という、もう一つの西洋美術受容の系譜を再構築することを試みるものである。ここで、「キリスト教美術」ではなく「西洋美術」とするのは、西洋の宗教美術をキリスト教という枠組のみで括ることは必ずしも正確ではないと考えられるからである。中南米の宣教/植民美術や本研究で扱う“かくれ”キリシタン美術と同様に、西洋キリスト教美術においても様々な異教の残滓が垣間見られるのであり、本研究はこの点を重視する。今後は、対抗宗教改革期(カトリック宗教改革期)、禁教期、幕末から明治の、3つの時期に分けて掘り下げていく予定であり、おおむね当初の計画に沿って研究を遂行する。 本研究は、16世紀から19世紀にかけての日本における西洋宗教美術受容史の再構築を目指す新しい試みであると同時に、対象が広範にわたることも事実である。本研究期間内で全てを解明することは当然のことながら困難であるが、これまで全く研究されていなかった分野も含めて、最終的に大まかな見取り図を提示することを目指したい。よって、一次史料および画像資料の蒐集と整理、各資料の年代と内容の確定が中心となる予定である。これに、研究者各自の専門的見地からの考察を加えていくことを目指す。この研究が端緒となって将来的には同分野の研究の展開と深化に結びつくことが期待される。
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