オンライン開催を見込んでいたシンポジウムは、6月に日本音楽表現学会第20(ソナーレ)大会において、研究者、三線製作事業協同組合、実演家による基調講演、レクチャー&コンサートとして企画し、ビデオプレゼンテーションおよび対面での発表として実施した。さらに、「くるちの杜100年プロジェクト in 読谷」の6年間にわたる継続的な調査結果をもとに映像を作成し、東洋音楽学会第73回全国大会で発表を行った。同プロジェクトは、沖縄県三線製作事業協同組合が植林・造林事業の一環として、2012年より除草作業参加やイベント協力、啓蒙活動へボランティア参加している。映像を通じて、黒木(くるち、琉球黒檀)は沖縄の人々が精神的にも拠り所としてきた樹木であり、その心材は三線で最も重視される棹の材料となること、1970年代半ば頃から枯渇が始まり、良質な輸入黒檀の入手も困難になってきたこと、100年経っても不十分なほど心材部分の成長は非常に遅いこと、プロジェクトでは年に1度の育樹祭、2年に1度の「くるちの杜音楽祭」などの啓蒙やくるちのメンテナンスをおこなっていることなどを報告した。上映後、大会参加者を始め、イギリスの映像人類学者らにもコメントを求め、技術上の改善点などさまざまな示唆を得た。その後、映像のライナーノートを執筆し、持続可能な継承、平等、戦争と平和という映像のテーマ、サウンドスケープに関するコンセプト、音楽とビジュアルに配慮した構成、制作技術や著作権処理についてなどを公表した。また、これと合わせて閲覧できるかたちで、映像をWeb上に公開した。また、国際共同研究として、本プロジェクトをとりあげた論文の完成と出版に向けての最終仕上げを行った。
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