研究課題/領域番号 |
18H00638
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
椎原 伸博 実践女子大学, 文学部, 教授 (20276679)
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研究分担者 |
林 卓行 東京藝術大学, 美術学部, 准教授 (00328022)
島津 京 専修大学, 文学部, 准教授 (80401496)
神野 真吾 千葉大学, 教育学部, 准教授 (90431733)
住友 文彦 東京藝術大学, 大学院国際芸術創造研究科, 准教授 (20537295)
丹治 嘉彦 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (80242395)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 現代アート / 食 / 創造性 / アートプロジェクト / 関係性の美学 / 味覚 / 多文化共生 / 持続可能性 |
研究実績の概要 |
研究初年度には「食」を重要視する現代アート展である〈越後妻有アートトリエンナーレ〉の調査を重点的に行った(全員)。そこでは現代アートの文脈で提示される食が誘発するコミュニケーションに注目し、アートの内実が作品だけに集約されないことを確認した(丹治)。 海外では、パレルモで開催されたマニフェスタ12の調査を行った(椎原、林、神野)。この展覧会のテーマは、The Planetary Garden. Cultivating Coexistenceというものであったが、植物や庭の視点から食を再考する機会を得た。また、1968年のベリーチェ地震から50周年にあたり、その復興都市(新ジベリーナ)における現代アートの活用事例の調査を行った。さらにラオスや沖縄における食と工芸が、政治や宗教の影響を受けながら文化的混淆性を示しつつ、自然と人間の循環的な関係性を考えるうえで重要な役割を果たしてきたことを調査した(住友)。この視点は多文化共生の問題意識へと連なり、実際にアーティストの中山晴奈と共にワークショップを行った(神野)。つまり、文化的背景の異なる人たちと食事を共に作ることを記録、公開する作業を通して、アートの題材としての食が、他者への共感の契機となることが確認できた。 理論的研究では、ヨーロッパ近代のアートにおける食について資料調査を行った。未来派を始めとする前衛的実践において、食はアカデミズムへの対抗、あるいは伝統的に感覚の階層の下位におかれた味覚や触覚の掘り起こしと結びつけられたことを確認した(島津)。そして、食の主題化は、観客を巻き込む実践への展開に関連し得るとの視点を得た。さらに、パリで行われたGordon Matta-Clark: Anarchitecture展を調査し、理論的研究を深めた(林)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究初年度は、研究分担者への予算配分時期がやや遅れたこともあり、実地調査を着手出来たのは8月中旬になってからであった。また、シチリアの調査は9月になってからであり、同様にラオスの調査も10月中旬以降ということで、研究の着手はやや遅れた。研究者全員が集まる研究会議は、年3回開き、そのうち10月と12月の研究会議では、それぞれの調査対象の調査報告を行った。そこでは限られた時間ではあったが率直な意見交換が出来た。しかし、各研究者が学会等で研究発表する準備期間は短く、各研究者が次年度以降に先送りしたため、予定より研究成果の報告は少なく、その点で研究の進捗状況はやや遅れていると言わざるをえない。 とはいえ昨年度の研究成果に対し現段階(2019年5月)で二つの学会への投稿が既におこなわれており、また2019年10月26日にワインとアートに関するシンポジウムについては、登壇者の確定とスケジュール調整済みであり、そのための準備も進行している。さらに研究2年度には、シンポジウム記録と2年間の研究成果報告を義務づけており、やや遅れ気味ではあるが地道な研究を遂行している。
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今後の研究の推進方策 |
研究初年度は、国内の調査では越後妻有アートトリエンナーレの調査を軸として行ってきたが、2019年度は国際展は開催されないものの、持続可能性の視点から調査を継続して行う。また、同様の事例は日本国内には多くあり、2019年度は越後妻有と同じ運営システムで行われている瀬戸内国際芸術祭、さらに東日本大震災の被災地の復興という問題と現代アートを結びつけているReborn-Art Festival 2019(宮城県石巻市中心)の調査を軸に行う。二つの事業共に食の問題を前面に押し出しており、越後妻有との比較から考察を進めたい。同様に、群馬県の中之条ビエンナーレ、あいちトリエンナーレといった展覧会も研究対象とする。国外の事例調査ではヴェネチアやイスタンブール、リヨンで開催されるビエンナーレ展の調査、さらに研究初年度で基礎調査を行ったラオスや台湾といったアジア地域の調査も継続して行う。 また、2019年度はワインに注目し、10月26日にワインとアートの関係性をテーマにした、シンポジウムを開催する。そのために、フランスやイタリアでにおけるワイン生産がもたらす景観の問題(ワインスケープ)の研究者と、実際に北海道の空知でワイン生産とアートを結びつけるプロジェクトを実施している研究者、イタリアのスローフード運動研究者を招聘し、積極的な意見交換を行う。この問題はワイン生産の産業的側面、観光的側面、景観の諸問題や文化財保護の問題等複雑にからみあっており、そこに現代アートの創造性の問題も含めることで、新しい知見を導くことになると期待している。 本研究の研究期間は4年であるが、既に外部資金を調達して、研究成果の報告書を作成することが決定している。そこでは、ワインとアートのシンポジウム記録と、2年間の研究成果の報告を行い、研究成果を広く公開していく予定である。
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