研究課題/領域番号 |
18H00642
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
中島 弘二 金沢大学, 人間科学系, 教授 (90217703)
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研究分担者 |
米家 泰作 京都大学, 文学研究科, 准教授 (10315864)
竹本 太郎 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (10537434)
三島 美佐子 九州大学, 総合研究博物館, 准教授 (30346770)
水野 祥子 駒澤大学, 経済学部, 教授 (40372601)
永井 リサ 九州大学, 総合研究博物館, 専門研究員 (60615219)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 帝国林業 / 日本帝国主義 / 環境保護主義 / 林学 / 科学的知識 |
研究実績の概要 |
「研究総括」班では、2018年度に2つの大きな成果をあげることができた。1つ目は、国際ワークショップの開催である。本科研の研究目的の一つに、近代日本における帝国林業をめぐる知と実践の諸関係を西欧帝国主義の文脈と比較検討することで、日本帝国主義の特徴を描き出すという課題がある。この課題のために、本科研の研究分担者の一人である水野祥子が研究代表者をつとめる基盤研究(C)「イギリス帝国林学ネットワークの再編と知の生産―英領インドの脱植民地化を中心に―」と本科研の共催で、海外からの研究者を招いて国際ワークショップ “Empire Forestry Networks and Knowledge Production” を2018年11月23日-24日に駒澤大学で開催した。2つ目は本科研メンバーで2019年3月4日-8日に台湾を訪れて植民地期資料の調査を行い、現地研究者との研究交流をおこなったものである。国立台湾大学植物標本館と台湾行政院農業委員会林業試験所では金平亮三をはじめとする当時の日本人研究者の活動や研究内容について多くの知見を得られただけでなく、現地の研究者とのコラボレーションによる展示会の開催や共同出版の計画など今後の研究につながるたいへん有益な議論を行うことができた。また、研究代表者の中島は花蓮市の国立東華大学を訪問し、台湾森林研究の第一人者である王鴻濬教授と研究打ち合わせを行うとともに、本科研の研究成果について同大学で講演をおこなった。 「台湾班」および「南方班」については、上記の台湾訪問での調査・研究交流を通じて多くの貴重な資料や助言を得ることができた。そのほか「朝鮮班」「満州班」も順調に調査・研究を行っている。また、「データベース班」については「外林会」関連資料のデータベース化を進め、2019年度の早いうちにインターネット上で公開できる見通しである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の【研究実績の概要】でも記したように、2018年度は国際ワークショップ“Empire Forestry Networks and Knowledge Production” の開催と、台湾での植民地期資料調査および現地研究者との研究交流を行うことができ、ほぼ当初の計画に沿った成果を上げることができたと思われる。本科研はその研究の特性上、日本国内での議論や研究交流にとどまらずに国際的な議論や研究交流を行うことが強く求められる。その意味で、研究初年度の2018年度に英帝国林業を専門とする海外研究者や日本統治期の台湾の森林・林業を専門とする台湾研究者との研究交流を行い、今後の共同研究への道筋をつけることができたことは大きな成果だと言えよう。また、「外林会」資料のデータベースが公開間近までこぎつけたことは、これまでほとんど公にされてこなかった日本帝国下における植民地林業官僚の具体的な業務内容や引き揚げ後の日本で彼らが果たした役割を明らかにするうえで大きな貢献になりうると思われる。 ただし、当初は2018年の夏休み中に行う予定であった台湾訪問調査が今夏の台風の影響で中止となり、2019年3月の春休みに延期せざるをえなかったこともあり、特に「台湾班」「南方班」の研究スケジュールが後ろ倒しになったことや、今年度は初年度ということもあり、基礎的な資料調査やデータベース作成に多くの時間を取られ成果の活字化が若干遅れている点は反省すべき点である。 以上の諸点を総合的に考慮して「(2)おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策としては、(1)前年度と同様に国際学会への参加や国際ワークショップおよび研究会の開催等を通じて海外研究者との交流や共同研究を積極的に進める。2019年10月に東アジア環境史学会が台湾で開催されるが、同学会で本科研メンバー5人が"Production of scientific knowledge and the Japanese empire forestry"と題するパネルセッションを開催する予定である。これは同じく上記学会で開催予定の"Knowledge and Practices in British Colonial and Postcolonial Forestry"と題する英帝国林業に関するパネルセッションと連携して行われるもので、東アジア環境史学会において帝国林業に関する日英比較研究の議論をおこなうことを目的とするものである。(2)引き続き「朝鮮班」「台湾班」「満州班」「南方班」と各地域ごとに研究を進めていくが、今年度からはこれらに加えて新たに「樺太班」を設ける。これまで本科研では十分にカバーできていなかった日本統治下の樺太に関して、樺太研究を専門とする中山大将氏を研究分担者に加えることで、北方地域を含めて日本の帝国林業に関するより体系的な研究を進めていくことが可能となる。(3)「データベース班」では2018年度までに収集・整理した「外林会」関連資料のデータベース化をおこない、2019年度中に研究分担者の三島と永井が所属する九州大学博物館のホームページ上でデータベースを公開する予定である。これは日本帝国下における植民地林業官僚の活動内容やライフヒストリーに関する資料であり、個人情報保護の範囲内で可能な情報を公開することで、これまでほとんど研究が進んでこなかったこの分野の研究の進展を図るものである。
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