研究実績の概要 |
中世に現れた合戦図、『太平記』が近世的な価値体系の中でどのように再編されていったのかを、中世から近世への過渡期となる十七世紀の政治的・文化的諸状況を踏まえつつ、「文化としての〈武〉」という観点から解き明かした。 合戦図は、中世から近世にかけて、絵巻、絵馬、絵入り版本、奈良絵本、屏風、横本といった異なった形態のうちに展開したが、そこには、構図、モチーフなど様々なつながりを見てとることができる。そのことを俯瞰的に見られるようにまとめた『合戦図―描かれた武』勉誠社は、総論、図版、各論を配することで、これまで各分野でそれぞれ個別に論じられてきたことが交錯しあう極めてスリリングな場になっており、絵の技法、歴史的背景、描かれた内容を越えた形態のことなどがばらばらな論題のようにみえながら、実は共通のテーゼが存在していることを明らかにすることができた。本書は、本科研のテーマに即して刊行したものであり、この分野において大きな成果を得ることができた。 また、『奈良絵本「太平記」の世界(全2巻) 永青文庫所蔵「絵入太平記」全挿絵影印ならびに研究』勉誠社においては、永青文庫蔵『絵入太平記』の挿絵を中心に、『太平記』について、大名家における「文化としての〈武〉」の受容という観点から解き明かした。 その他、国際学会EAJSにおいて、次のようなタイトルで、尾張藩の覚書を中心に、中世の軍記物語の表現がいかに近世のいくさの表現形成に密接に関わっているかを明らかにした。Writing and Remembrance in the "oboegaki" Genre : Battle Accounts, Literary Techniques, and the Reimagining of War Tales
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