研究実績の概要 |
本年度もパンデミックの終息を予測することができないため、当初予定していた国際会議の開催や海外出張(学会発表や資料調査)を断念し、おもにオンラインでのワークショップなどを実施した。遠藤は、全体の研究活動を統括しながら、昨年度に引き続き、研究テーマである「反心理学」について「情動」という観点から考察をし、その政治的意義などについて探究をした。この文脈で、精神分析とマルクス主義の意義について再考察を試みた。研究対象は、Raymond Williams, Virginia Woolf, Sigmund Freud, Melanie Klein, Joan Riviereなどである。田尻も、昨年度に引き続き、Kazuo Ishiguro、三島由紀夫にまで当該テーマを拡張し、その成果として共編著である『三島由紀夫小百科』および、共訳書レベッカ・ウォーコウィッツ『生まれつき翻訳ーー世界文学時代の現代小説』を刊行するなどした。当該分野で特に「世界文学」と「翻訳」という主題について考察を深めた。中井は、Virginia Woolfの1930年代の思想と1970年代の「家事労働に賃金を」運動との関係を調査し、Three Guineasをマルクス主義フェミニズムの観点から再読する英語論文を刊行した。これは査読付きの海外の学術雑誌に掲載された。中井は、このように昨年度と同様、当該テーマに潜在するラディカルな政治性を議論することに努めた。秦は、まずGeroge Orwell『一九八四年』についての編著を出版し、その後、20世紀後半に活躍したイギリスの文化批評家Raymond Williamsの著作『オーウェル』を翻訳出版し、批評の社会的役割やユートピア/ディストピアという文学形式の理解について長文の附論を掲載した。これも当該テーマの社会主義的可能性を問うものである。
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