研究課題/領域番号 |
18H00656
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
沼野 恭子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (60536142)
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研究分担者 |
鈴木 義一 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (40262125)
福嶋 千穂 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (50735850)
塩川 伸明 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 名誉教授 (70126077)
前田 和泉 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (70556216)
赤尾 光春 大阪経済法科大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (90411694)
越野 剛 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (90513242)
巽 由樹子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (90643255)
大森 雅子 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 准教授 (90749152)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 東スラヴ文化圏 / ロシア文化 / ウクライナ文化 / ベラルーシ文化 / ユダヤ文化 |
研究実績の概要 |
2019年度は、前年に引き続き、 ロシア・ウクライナ・ベラルーシに跨る「東スラヴ文化圏」の多言語的、多文化的実相を、現地の文学・文化・歴史関連の研究者や作家らと交流しながら明らかにすることを目的に活動を進めた。具体的には、マンチェスター大学のヴェーラ・トルツ教授、イーホル・ハルチェンコ在日ウクライナ大使、ロシア効率研究大学高等経済学院のウリヤナ・ストリジャック准教授、シェフィールド大学のエヴゲーニイ・ドブレンコ教授を招き、講演をしていただいたほか、レフ・トルストイのポスター展、ウクライナ写真展、を本学研究講義棟にて開催して一般公開した。 また、ポーランドのユダヤ人ゾフィア・ポスムィシの小説『パサジェルカ(女船客)』(1962)にミェチスワフ・ヴァインベルクが曲を書きオペラ化した(1968)作品のDVDの上映会を行った。ドイツ語、ロシア語、イディッシュ語、ポーランド語、フランス語、英語の使われる多言語オペラは、まさに本科研が解明しようとしている東スラブ文化圏を含む東ヨーロッパの複雑な多言語・多文化状況を象徴したものだ。 さらに学術セミナー「ロシアと日本──インスピレーションから相互理解へ」を日頃から交流関係のあるモスクワ大学と連携し、日本ロシア文学会の後援を得て東京外国語大学で開催した。 研究は順調に進められていたが、2020年に入り新型コロナウィルス感染症の急拡大するなか、いくつものイベントや出張が見送られることになった。新学期の授業がオンライン方式で行われることが決まると、その準備のために多くの時間が取られ、研究は計画どおりには進められなくなってしまった。翌年度にコロナ禍が終息することを期待して、繰越の手続きを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本科研グループは、 ロシア・ウクライナ・ベラルーシの東スラヴ文化圏にユダヤ文化という越境的なアクターを取りこむことにより、多言語・多文化が混在するこの地域の文化の構造や実相を明らかにしようとするものであり、今年度もこの目標に向けたさまざまな取組みがなされた。まずは、メンバーのそれぞれの専門と関心に応じて、交流を深めたい研究者を招聘してさまざまなテーマで講演をしていただき、質疑応答を行う形で知識や知見をシェアすることができた。本科研は、主として政治部門に身を置くメンバーが2名、文学・文化を専門とする者が4名、歴史部門の専門家が3名で成り立っている。ディシプリンが異なることによってかえって刺激的な議論を呼ぶことがあり得るとの認識から、領域横断的なメンバー構成になっている。今年度はその利点を活かし、政治、社会、歴史、文学、芸術のさまざまな角度から東スラヴ文化圏について考察することができた。国際シンポジウムは、主要なゲストに来日を断られたこともあり、当初考えていたような方向性(ウクライナとベラルーシからロシアを見る)といったテーマではなく、モスクワ大学からの申し出により、モスクワ大学との共催による比較文学・比較文化的な色合いの濃いセミナーとなったが、来日した作家でゴーリキー文学大学のアレクセイ・ワルラーモフ学長が、ウクライナに縁の深い作家ミハイル・ブルガーコフについて基調講演をしてくださり、たいへん示唆に富んでいたこと、日露関係を通してロシアの新たな側面が浮かびあがったことは、大きな意味があったといえよう。 前年度2018年11月10日に東京外国語大学で開催した国際シンポジウム「東スラヴ人の歌──ロシア・ウクライナ・ベラルーシの文学と社会をめぐって」のプロシーディングを、2019年4月2日に刊行したことも付け加えておきたい。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の最後、とりわけ2020年2月以降、新型コロナ感染症の感染拡大により、本科研メンバーの数名が春休みに予定していた出張を取りやめざるを得なくなった。世界的な感染拡大によりこのパンデミックがいつ終息するのかまったく先の読めない状況になったため、今後の研究の方策を立てるのが難しくなったのはたしかである。アーカイヴ調査が必須の研究者にとっては、東スラヴ地域への出張や研修ができないのは研究を遂行する上で致命的な問題となり得る。 一方、オンラインによる講演会やシンポジウムの可能性が広がり、移動しなくても種々のイベントに参加できるようになったという側面もある。リモートによる交流の道を探り、本科研が目指したロシア・ウクライナ・ベラルーシの政治・社会・歴史・文化・芸術について引き続き共同研究を行っていきたい。とくに、この3地域に深い関わりを持っているスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチに注目して作品研究やインタビューを行うとともに、他の、多様な文化的背景を持つ作家やアーティストらにも目を向けたい。
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