研究課題/領域番号 |
18H00658
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉川 雅之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30313159)
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研究分担者 |
盧 建 名古屋大学, 教養教育院, その他 (80540872)
倉田 明子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (20636211)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 東西文化交流 / キリスト教 / 福音書 / 翻訳 / 近代漢語 / 文献学 / 刊本 / 欧文資料 |
研究実績の概要 |
本年度は前年度よりも遙かに多くの版を基礎資料として研究を行った。それによって、19世紀中期から後期にかけての口語版漢訳聖書について、同じ口語種の異版間に見られる章句の異同を網羅的に把握することができた。 本年度行った資料収集・分析・考察は以下のとおりである。吉川はデータベースの拡充と異版間に見られる章句の異同の分析を進めた。また、協力者1名をヨーロッパの図書館に派遣し、基礎資料の収集を行った。盧は章句を入力したデータベースを用いて、北京官話訳と南京官話訳の諸版について章句の異同を分析し、異同の原因について考察を進めた。倉田はアジアの図書館で文献調査を行い、口語版漢訳聖書の翻訳に関する伝導会史料を収集し、その解読を進めた。 本年度の主要な研究成果は以下のとおりである。吉川が取り纏めた「欧文資料による近代口語研究」についての論文数点が、国内の学会誌『中国語学』266号に特集記事として掲載された。これは、2018年に日本中国語学会第68回全国大会で催されたワークショップ「域外資料から近代口語を問う──文献言語学の挑戦と課題」で行った口頭発表の内容を発展させ、中国語で執筆したものである。盧は日本中国語学会第69回全国大会で「《約翰傳福音書》(南京)官話版與(北京)官話版之基礎方言探究」と題した口頭発表を行った。これは「ヨハネによる福音書」について北京官話訳と南京官話訳の諸版を比較するという斬新な視点からの論考であり、19世紀以来の固定観念を覆す可能性を秘める点で、本研究の一大成果であると言ってよい。倉田はミラ・ゾンターク編『〈グローバル・ヒストリー〉の中のキリスト教』の一章を執筆した。それ以外に、吉川は東洋文庫・極東学院国際ワークショップで口頭発表を行い、当時の辞典・語彙集を史料として音声言語が学術の対象として形作られてきた軌跡を辿った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)研究期間開始時に設定した基礎資料選定、論点予測、分析の全てに於いて、問題無く進展している。初年度から進めてきた、異なる口語種や同じ口語種の異版間で見られる章句の異同についての分析、及びその原因についての考察は、所期の目標を達成しつつある。 (2)初年度に行ったワークショップの発表内容を発展させた論文が、学会誌に特集記事として掲載された。明・清・中華民国期の欧文資料、及び欧文と強い繋がりを有する「準欧文資料」に基づいて当時の音声言語の詳細を明らかにする動きは、1990年代以来中国語学界に於けるフロンティアの一つとして成長してきた。口語版漢訳聖書はその準欧文資料の中で最も重要な位置を占める。また、本特集の論文では、欧文資料及び準欧文資料はどの様に扱われるべきかという学理的問題にも踏み込んだ。これは本研究の学術的意義を支える点で極めて重要であると同時に、本研究が将来より高度な構想に基づいた研究に昇華される可能性を示すものでもある。
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今後の研究の推進方策 |
吉川はこれまでの2年間に扱った以外の言語種も対象として、異言語訳の版に対する横断的比較を行い、語彙・文法特徴の差異を体系化する。盧は引き続き南京官話訳・北京官話訳の比較研究を深化させる。倉田は過去2年間収集した史料に基づき、翻訳過程の解明を進める。そして、三者の研究を統合することで、口語版の文体の本質と、口語版に反映した言語の特質について、仮説を提示する。 また、本年度は研究期間の最終年度であるため、十九世紀の漢訳聖書を文献学、言語学、歴史学の三方面から扱う学際的研究について議論すべく、講演会を行うことを計画している。
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