今年度は,前年度から引き続き,土田滋博士(前東京大学教授)提供のオーストロネシア諸語のフィールドデータのデジタル化,菅原和孝博士(京都大学名誉教授)提供のグイ語のフィールド収集データのデジタル化を進めるのに加え,新たに山田幸広氏(高知大学名誉教授)提供のオーストロネシア諸語のフィールドデータのデジタル化を進めた。これらのデジタル化は,ノート類・カード類のデジタルスキャンとフィールドで録音した音声(主にカセットテープ)のデジタルデータ変換を主たる作業としているが,それらの作業はすべて終えることができた。 デジタル化することで,データの散逸と喪失は免れるが,(1)それらをどのように保持・保存するか,(2)メータデータを付して,紐付けすることで,データ相互の関連が明確な有機的連関性を有するものとするための作業をどう行うか,(3)後につづく中堅・若手の研究者が利活用できるようにどのように整備するか,(4)データを保存することの必要性を言語研究者の間で共有するには何が必要か,などの問題が残されている。 これらのうち第4点は,日本語言語学会でワークショップを開催することで,一定の認知を得たと思われ,その中でさまざまな意見を集めることができ,今後成果を発信するために整理を行った。第一点についても,種々の知見や方法論は議論できたが,決定的な最終解決方策を得たわけではなく,言語研究の外部にいかに広げていくかに焦点を当てた次段階の考察に進めている。第二点の作業の重要性は認識を共有できたが,作業は後続の研究に託さざるを得ない部分が多く残っている。しかし,これは研究計画通りに進まなかったわけではなく,残された資源を有効に活用するためにアナログデータのデジタル化を先行したためでもある。概ね当初の研究の方向性に沿って進捗し,作業工程の優先度を考慮して柔軟に対処でき,いずれの課題にも目処を示せた。
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