研究課題/領域番号 |
18H00665
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
呉人 惠 富山大学, 学術研究部人文科学系, 教授 (90223106)
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研究分担者 |
江畑 冬生 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (80709874)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 北方危機諸言語 / 北東アジア諸言語 / 北米先住民諸言語 / 系統と類型 / 地域類型論 / 言語接触 / 形成プロセス / ネットワーク強化 |
研究実績の概要 |
本研究では,北方諸言語研究ネットワーク強化に取り組み,北東アジア諸言語の形成プロセス,北米諸言語との類型的・系統的関係という主たるテーマの解明を目指す。2019年度は,①ネットワークの母体となる日本北方言語学会の運営と,②本研究メンバーの呉人(代表者)と江畑(分担者)の専門言語の記述研究に取り組んだ。具体的内容は以下の通り。 ①日本北方言語学会の運営:第2回大会を11月富山大学において開催した。大会は,特別セッション「言語類型論と北方諸言語研究」と研究発表に分かれ,呉人と江畑は特別セッションで複統合性に関する発表をそれぞれ行った。学会誌『北方言語研究』10号を刊行した。本誌では16本の掲載論文のうち6本が英語論文であったが,このような学会誌の国際化に鑑みて,英語論文の査読体制の整備に取り組んだ。随時,学会HPの更新を行った。 ②記述研究:呉人は10月にロシアでコリャーク語聞き取り調査を行った。その成果に基づき,日本北方言語学会第2回大会でコリャーク語の複統合性に関して発表するとともに論文化し,『北方言語研究』10号に掲載された。また,富山大学人文学部コレギウムで,コリャーク語の所有構造における名詞句階層を英語と対照して発表し,論文は『富山大学人文学部叢書Ⅲ人文知カレイドスコープ』に掲載された。江畑は,主に北東アジア諸言語における膠着性と複統合性に関する研究を行った。論文 Agglutinativeness, polysynthesis and syntactic derivation in Northeastern Eurasian languagesは,北東アジアのチュルク系言語の膠着性と複統合性を,ナーナイ語やコリャーク語と対照しながら類型的に検討したものである.これは『北方言語研究』10号の特集「言語類型論と北方諸言語研究」の1つとして掲載された(Ebata 2000).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,①日本北方言語学会の継続的運営と②対象言語の記述研究・類型論的比較研究を柱とする。2019年度は,この2つの柱のいずれにおいても,当初の計画以上に順調に研究活動を進めることができた。特に学会会員の急増と各メンバーの研究成果が顕著であった。 ①日本北方言語学会の運営:連携研究者の児倉徳和氏(東外大AA研)の協力によりHPの管理更新を適切に進めることができた。第2回大会では発表者10名を数えた。さらに,大会前日には,富山大学人文学部第9回言語学公開講演会「2019国際先住民言語記念リレー講演」にて呉人,江畑は古アジア諸語,アルタイ諸語についての講演を行い,啓蒙活動にも取り組んだ。学会誌『北方言語研究』10号の刊行を行った。本誌は年々掲載数が増え,10号は16本となった(8,9号は各10本)。加えて,当初,約20名でスタートした会員は1年で約50名にまで急増した。 ②各メンバーの対象言語の記述研究・類型論的比較研究:呉人はロシアでコリャーク語文法に関する聞き取り調査をおこなった。その成果は,上述の通り,11月の第2回日本北方言語学会大会にて口頭発表するとともに,『北方言語研究』10に論文として掲載された。また,英語の所有構造との対照をした論文も『富山大学人文学部叢書Ⅲ人文知のカレイドスコープ』に掲載された。江畑は,韓国ソウル国立大学教授のキム・ジュウォン教授やロシア科学アカデミーのシュリュン・アルジャーナ博士らとの国際共同研究を進め,国外の北方言語研究者とのネットワーク強化を図った。また,チュルク諸語研究の立場から北方諸言語の類型と系統に関する研究を進め,韓国国語学会での招待講演をはじめ,多くの学会で口頭発表を行うとともに,その成果を『北方言語研究』などの査読誌にも投稿し,掲載された。さらに,単著『サハ語文法: 統語的派生と言語類型論的特異性』も刊行するなどの成果をあげることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は基本的には今後もこれまで同様に,①日本北方言語学会の継続的運営,②対象言語の記述研究と類型論的比較対照研究を柱に発展的に継続していく所存である。ただし,コロナの感染拡大により今後,研究推進上,様々な問題が生じることも想定される。そこでその対応策として大きく次の2点を考えている。 (1) 学会運営:コロナが2019年12月に発生し,翌年にはその影響が研究推進にも徐々に影響を及ぼし始めてきた。翌年1月以降は学会などの対面式の活動が制限された。2020年度以降もこのような状況がしばらく続くことが予想される。HPの管理更新や学会誌の刊行についてはさほど影響を蒙ることは考えられないものの,学会大会の対面での開催は危ぶまれる。そこで,大会については事前に,対面式だけではなく,オンラインでの開催の準備もしておきたいと考える。オンラインになれば,海外の研究者の参加も容易になるため,まずはその第一歩として,2020年度には韓国の研究者の参加を呼び掛けたい。 (2) 現地調査に代わる一次資料の整理分析:コロナ禍がこのまま継続すれば,海外での現地調査ができなくなる可能性も十分ある。そこで,それに代わる研究として,この機会にこれまで収集してきた一次資料の整理分析やデジタル化を進めるとともに,先人たちが残した文献資料によるフィールド文献学的な研究を推進することを考えている。
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