研究課題/領域番号 |
18H00665
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
呉人 惠 富山大学, 学術研究部人文科学系, 教授 (90223106)
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研究分担者 |
江畑 冬生 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (80709874)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 北方危機言語 / 類型と系統 / コリャーク語 / トゥバ語・ハカス語 / 国際的ネットワーク強化 |
研究実績の概要 |
2020年度は,① 本研究のネットワークである日本北方言語学会の国際化,②北東アジア諸言語と北米先住民諸言語の系統的・類型的関係の解明のための記述・類型研究の2点に取り組んだ。具体的な研究内容は以下の通りである。 ①日本北方言語学会の国際化の推進:国内外の会員が飛躍的に増加し約70名となった。韓国から7名の入会者があるなど国際化が促進された。学会誌『北方言語研究』11号には,15本の論文・資料が掲載されたが(うち,和文12本,英文3本),韓国のアルタイ諸語研究の第一人者金周源博士が寄稿されるなど,質量ともに充実を図ることができた。学会第3回大会では,北海道立北方民族学博物館において国際シンポジウムを開催する予定であったが,コロナ感染拡大により対面式での開催は中止せざるをえなくなり,オンラインでの開催となった(金周源博士の特別講演を含む9件の発表)。 ②記述・類型研究:呉人・江畑ともに,ロシアで現地調査をおこなう計画であったが,コロナ禍のために中止せざるをえなくなった。しかし,必要に応じてオンラインを利用した聞き取り調査や,蓄積してきた一次資料の整理分析,デジタル化を進めるなどに取り組んだ。呉人は既刊のコリャーク語の語り・民話テキストKurebito (2014, 2016, 2017, 2018, 2019) の形態素分析の改訂を行った。呉人 (2020),呉人 (2021)を発表するのみならず,共著の研究発表を行った。江畑は,北東アジアのチュルク系言語における証拠性と所有構造に関する研究を行った。『言語の類型的特徴対照研究会論集』所収の2つの論文では,同系のサハ語とトゥバ語における証拠性ストラテジーの違いを示した。また国際的な研究ネットワークの成果の1つとして,金周源教授(ソウル国立大学)の講演録「韓国のアルタイ諸語研究の現状と展望」を白尚燁准教授(室蘭工業大学)と共訳した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度には,具体的には,大きく,① 本研究のネットワークである日本北方言語学会の国際化,②記述・類型研究の2点に取り組んだ。上記概要にも記した通り,2020年度はコロナ感染拡大のために,①②いずれの研究活動においても,マイナス面があったことは否定できない。具体的には,①については日本北方言語学会第3回大会の対面式開催が中止となりオンライン開催となったこと,②については現地調査の中止などの事態が生じたことが挙げられる。特に,我々のような記述言語学者にとって,現地での聞き取り調査ができなかったことは一次資料の充実化の観点から残念な結果と言わざるをえない。 しかし,その一方でマイナスの中にもプラス面もあった。まず学会第3回大会は,オンラインにより海外(特に韓国)からの視聴が可能になり,それは,海外からの大会参加者の入会にも繋がった。このように学会活動の国際化が促進された点は重要な収穫であった。次に現地調査の中止については,新しい一次資料の収集はできなかったが,呉人,江畑ともにこれまでの現地調査により相当量の資料を蓄積してきており,本年度はその整理分析に十分な時間を取ることができたというプラス面もある。また,現地でも徐々にオンライン環境が整いつつあるため,SNSなどを活用してある程度の聞き取りは進めることができた。これも補完的な調査として,一定の成果であった。 一方,学会HPの管理更新や学会誌『北方言語研究』への投稿,査読,編集作業等々にはなんら支障は生じなかった。上述のとおり,このような中にあっても,学会誌は質量ともに充実した内容となった。また,呉人,江畑ともに研究業績も相当数発表することができた。以上から,本研究は「おおむね順調に進展している」と評価する次第である。
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今後の研究の推進方策 |
次の2021年度が本研究の最終年度となる。研究は,これまで通り,①日本北方言語学会の運営と②各メンバーの記述・類型研究の推進の2本の柱で進めていく予定である。ただし,コロナの感染状況により,様々な問題が生じる可能性が想定される。とりわけ,(1)第4回学会大会を対面式にするかオンラインにするか,(2)現地調査を行うか否かについては,両方の可能性を念頭に置きつつ,柔軟に対処していく必要がある。その方策として次のようなことを考えている。 (1)第4回学会大会の開催:2021年度には,対面式が可能な場合,北海道立北方民族博物館において国際シンポジウム+研究大会の形で開催したいと考えている。今回は,海外からは,フィンランドのアルタイ諸語研究のJuha Janhunen博士,ニブフ語研究のEkatelina Gruzdeva博士,韓国のアルタイ諸語研究の高東昊博士,ロシアのツングース諸語研究のAleksandr Pevnov博士を招聘したいと考えている。仮にコロナのために招聘ができない場合には,オンラインで各国を繋ぐとともに,現地(北方民族博物館)でのパブリックビューイングを併用して開催する。 (2)現地調査について:コロナの状況が改善して,海外での調査が可能となれば,呉人,江畑ともにロシアのそれぞれの調査地に赴いて,現地調査をおこなう。もしそれが不可能ならば,2020年度同様,既存の一次資料の整理分析,補完的なオンライン聞き取り調査をおこない,研究を中断させずに進展させる方策をとる。
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