研究課題/領域番号 |
18H00666
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研究機関 | 名古屋外国語大学 |
研究代表者 |
上田 功 名古屋外国語大学, 外国語学部, 教授 (50176583)
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研究分担者 |
松井 理直 大阪保健医療大学, 大阪保健医療大学 保健医療学部, 教授 (00273714)
田中 真一 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (10331034)
野田 尚史 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 日本語教育研究領域, 教授 (20144545)
坂本 洋子 獨協医科大学, 医学部, 准教授 (30568944)
三浦 優生 愛媛大学, 教育・学生支援機構, 准教授 (40612320)
安田 麗 神戸大学, 大学教育推進機構, 講師 (60711322)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 自閉症 / 音声学・音韻論 / 統語論 / 意味論 / 語用論 / 発達障害 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、自閉症を中心とした、発達障害児の言語体系を、音声・音韻、統語、意味、語用という、現代言語学の各部門から総合的に捉えて、その特徴を言語学的な視点から分析することにある。 コロナ感染が広がり、データ収集が難しい状況下でも、研究チームはこれまでに蓄積したデータを分析したり、それを別の角度から再考察して、相当の研究成果を世に問うことができた。具体的には、メンバーの田中は、『音声学・音韻論と言語諸分野とのインターフェイス』を編集し、構音獲得・構音障害や聴覚障害と言語理論との接点に関して本研究プロジェクトに重要な意義を提起した。さらに音声面では、松井がアクセント規則の処理に関して、症例研究を日本認知科学会で発表し、さらに言語障害に関連する論考では、「外国語様アクセント症候群」の原因を論じた研究を、『高次脳機能研究』に掲載した。また障害の生理的側面に関連して、発話速度と舌口蓋接触の関係を議論した論考も発表している。また田中は音韻のテキストセッティングに注目し、日本語の音韻構造や韻律構造とテキストセッティングの関係、さらに外国語訛りとの関連を視野に入れて、チャハル・モンゴル語のテキストセッティングも考察し、韓国語話者の日本語訛りについても、音節に関係する論考を発表している。 統語・意味面では、野田が外国語習得困難点と障害の平行性を探るべく、読解における推測のストラテジーを発表し、配慮の表現や行動とコミュニケーションの関係を考察している。語用論の領域では三浦が、自閉症児の発話の含意の理解に関して、いわゆる副助詞を取り上げた論考と、児童の間接発話の解釈の発達を、年齢、性差、心の理論スキルによる影響に注目してを発表している。また三浦と上田は国際学会において、自閉症児の「不確実さ」を表すプロソディーについての発表をおこなうことになっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度も研究の中核を成すのは、自閉症児のデータ収集であった。しかしながらコロナ禍においては、対面の観察が許されず、データが収集遅れている。特に日英語自閉症児言語の比較が、影響を受けて、アメリカ合衆国での研究協力者とのデータ収集が中止となった。併せて当地の専門家とのデータ分析や議論も不可能になり、さらに成果発表を予定した国際学会もキャンセルとなった。このような事情で、上田と安田は計画の一部を21年度に繰り越さざるを得なくなった。 このようなコロナ感染の状況下であったが、徐々に国内においては研究活動が再開できるようになり、徐々にではあるが対面によるデータ収集も可能になってきた。またメンバーにとっては、今年度は、昨年度までに収集したデータを詳細に分析したり、これを様々な角度から見直す機会となり、さらに理論的な考察を深めたり、臨床と理論の接点を多面的に考えることができた。さらに上田は、海外のコーパスや研究者と連携し、諸言語に共通な構音発達と遅滞の評価基準を考察しつつあり、これを日本語話者の発達遅滞児に適応したケーススタディーを進めつつある。また松井はこれまでのデータに依拠した障害児の分節音やプロソディーに関する成果発表を複数回おこなったし、田中も外国語訛りとの平行性をテキストセッティングという新しい視点から始めることができた。 統語面と意味面では野田がやはり外国語習得と障害の関係を読解における推測という側面から考察し、配慮の表現・行動という自閉症と密接に結びつく研究をおこない、さらに介護福祉国家試験を俎上に上げ、日本語学習者の読み誤りを分析した。 語用論分野でも、三浦が自閉症児の会話でのインタラクションの問題についてコンスタントに発表を続け、さらに応用分野でも坂本が、障害者に対するロボティックスの可能性を探っている。 以上、コロナ禍下であっても、相当な成果は得られたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究も次年度で最終年度を迎えることになる。本来ならば最終的なまとめを視野に入れつつ、メンバーが個々の研究成果を研究課題の成果報告にむけてまとめる段階に来ている。しかしながら、上述したように、コロナ禍は研究遂行に相当の影響を与えた。特にアメリカ合衆国での研究活動が中止になったので、自閉症児の日英語比較は、今後、よほどコロナ感染の状況が好転しない限り、実施は不可能であると思われる。それで、研究課題の最重要部分を占める日本語話者自閉症児の言語体系を、より深く広範囲に研究を進めたいと計画している。英語との比較は、これまでの膨大な英語自閉症児の先行研究・報告の文献的研究をもっておぎなう予定である。 具体的な計画として、これまでもっとも進展しているのが、音声学・音韻論分野、統語論・意味論分野、語用論分野である。引き続き音声領域では、障害児の逸脱発音の生理的な側面を松井がさらに掘り下げ、田中、安田は外国語訛りとの平行性について、音韻理論からの考察(田中)と音響音声学的な実験(安田)を進める。 統語と意味分野では、野田がやはり外国語学習に見られる誤用や習得困難点との共通性を、読解の処理におけるプロセスや推論などの分析から研究を進める。語用論の領域では、三浦が主として関連性理論に依拠しながら、自閉症児の発話の問題点の解明を進める。自閉症児は、「会話において空気が読めない」とされ、いじめを受けたりしているが、三浦の研究はこのような社会的、教育的問題の解決にも貢献することが期待される。 応用的側面に目を転ずると、坂本がこれまで手がけている、ロボット工学を自閉症児との臨床に使用するという可能性を続けて追求してみる予定である。最後に本研究プロジェクトの波及的側面では、これまで主として上田が構音獲得の遅滞や難読症児の音韻体系を解明すべく研究をおこなってきたが、これらをまとめて、発表する予定である。
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