研究課題/領域番号 |
18H00671
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研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
原 大介 豊田工業大学, 工学部, 教授 (00329822)
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研究分担者 |
三輪 誠 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00529646)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 日本手話 / 音節 / 適格性 / 音素配列論 |
研究実績の概要 |
日本手話では、「手型」、「手の位置」、「手の動き」の3つのカテゴリに属する要素といくつかのマイナーな要素が音節構成素として関与している。カテゴリ間の要素結合は自由ではなく数学的に可能な組み合わせの多くが不適格な音節である。本研究では、音節の(不)適格性を音節構成要素の組み合わせの観点から明らかにすることを目的とする。目的達成のため、適格音節・不適格音節のそれぞれを収録したデータベース(以下DB)を作成している。当該年度は、両DBの精緻化・拡充化作業を行うとともに、両DBを使って音節の(不)適格性の検証を行った。 1.情報量の高い手型同士は組み合わさらないことは本研究者の研究により明らかになっているが、当該DBを使い大規模な調査した結果、タイプ3の両手手型の組み合わせの可否は情報量が関与していることが確認できた。また、手型の伸ばされている指の本数が両手手型の組み合わせに関与していることも分かった。 2.手型、掌の向き、中手骨の方向が組み合わさったものを「手の構え」と規定し、タイプ3音節に現れる手の構えの数(理論値と実数)を調査した。その結果、非利き手の場合、理論的に72通りある組み合わせのうち、B手型(5指を伸ばし指と指の間を閉じた手型)以外では3~4通りしか存在しないことが分かった。 3.タイプ3音節(単一形態素の場合)は身体前面のニュートラルスペース(NS)と胴体(TK)の2つにしか現れない。この位置では、左右の手とその位置の組み合わせは理論的に4通りあり得るが、「利き手がTK、非利き手がNS」の組みまわせは存在しない。また、「両手がNS」の場合を除き、接触の有無が適格性に関与していることが分かった。 4.決定木を利用した機械学習を行った。その際、5層ごとに、5層~30層の各パターンで機械学習を行った。その結果、掌の向きや中手骨の方向等も音節の適格性に関与していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
期待通りの成果が出ている。 本研究は、日本手話の適格音節、不適格音節を収集し、それらを「手型」、「位置」、「動き」、「掌の向き」、「中手骨の方向」、「接触位置」、「両手の関係」等、複数の要素に分解し、エクセルを使ってデータベース(DB)に記録している。当該年度は、その前年度に新たに協力を求めた日本手話母語話者が行った適格性判定結果を、それ以前の日本手話母語話者が行った判定結果に加え、あらためて適格性判定作業を行った。その結果、適格音節DBに約3000個、不適格音節DBに約250個が登録され、DBを拡充できた。それにより、より精度の高い調査が可能となっている。音節の(不)適格性には、「手型」、「位置」、「動き」の3つの主要構成要素の組み合わせだけでなく、「両手手型の情報量」、「手の構え」(手型・掌の向き・中手骨の方向)、「一方の手の他方の手または身体部位への接触」等のマイナーな要素も関与していることがわかってきた。さらに、機械学習を援用することで、人間の目による観察だけでは見つけづらい要因も、音節の(不)適格性にかかわっていることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に引き続き、適格音節データベースおよび不適格音節データベース(DB)の拡充・精緻化作業を継続するとともに、日本手話音節の(不)適格性条件の発見作業を行う。これらの作業のためには日本手話母語話者の言語的直観が不可欠であるため、彼らへのインタビューや複数の日本手話母語話者による検討会を行い情報提供を受ける予定である。予定では対面で行う作業であるが、新型コロナウイルスの状況を考慮し、インタビューや検討会の開催方式を検討する。これまでに判明した音素配列論の項目の信頼性を確認するため、日本手話母語話者の協力を得て確認作業も行う。 個別の事項として、(1)両手手型が異なる音節(タイプ3)における音節始めおよび音節終わりにおける韻律外性(extrametricality)に関する調査を行う。タイプ3では、A-zone(手話話者の胴体およびニュートラルスペースを含むエリア)が唯一利用可能な位置であったが、音節始めの位置がA-zone以外であるにもかかわらず適格となる音節が複数発見された。このことは、音節始めの位置が韻律外である可能性を示している。(2)タイプ3音節の「左右手型の組み合わせ表」および「各組み合わせの持つ情報量」をまとめ、情報量の観点から手型組み合わせの(不)適格性条件の調査を引き続き行う。その際、音節構成要素の1つである「接触」の役割に注目していく。(3)「手の構え」(手型、掌の向きと中手骨の方向の組み合わせ)が音節の(不)適格性に関与していることが明らかになったため、2020年度は、既存DBを活用し「手の構え」が音節の(不)適格性にどのように影響しているかを詳しく調査する。(4)今までの研究から日本手話の手型の詳細が明らかになってきた。2020年度は、音声的手型を音素にまとめる作業を行うとともに、各音素が持つ異音の種類についても明らかにする予定である。
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