日本手話では、「手型」、「手の位置」、「手の動き」の3つのカテゴリに属する要素と「掌の向き」、「指先の方向」等の複数のマイナーな要素が音節構成要素として関与する。これらの要素の組み合わさり方により音節の適格性を説明することを目的とする。目的達成のため、適格音節・不適格音節のそれぞれを収録したデータベース(以下DB)を作成・利用している。当該年度は音素配列論に関してこれまでに得られた成果を両DBに反映させるとともに、各音節が構成要素を単位として正しく登録されているか検証し矛盾や誤りがある場合はコーパス(日本語・手話辞典)や実際の日本手話を参照し訂正・精緻化作業を行った。その過程において以下の成果を得た。①不適格性要因(不適格音節の原因となる音節構成要素やその組み合わせ)を含む音節が適格音節DBに登録されているケースがいくつか確認された。その原因究明のため日本手話話者3名と個別に面談し、各音節の(不)適格性の再チェックを行った。その結果、日本手話のタイプ3の非利き手においてO手型、5手型が音素として機能しているかに関して疑義が生じた。日本手話研究では、これまでこれらの手型が音素であることは当然の事実として受け入れらており、「無標手型」として位置づけられているため、これらの手型の音素性に関して継続して調査する必要があることが判明した。②適格音節DBには60近くの手型が登録されているが、DB内の各手型の分布を調査した結果、いくつかの手型が同一音素の異音であると理論的に判断できるケースが複数見つかり、手型を約30個の音素にまとめることができた。また、これら30近くに絞った音素の中には汎用性が低い手型が複数存在しており、今後これらの手型の音素性について更なる検証が求められることが分かった。
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