研究課題/領域番号 |
18H00677
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
吉川 達 佐賀大学, 国際交流推進センター, 講師 (70599985)
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研究分担者 |
佐々木 良造 静岡大学, 国際連携推進機構, 特任准教授 (50609956)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 日本語教育 / 多読 / 第二言語習得 |
研究実績の概要 |
本年度は、多読のための読み物を拡張するため「現代社会再考プロジェクト」と称した現代社会について再考する読み物群を作成するプロジェクトを立ち上げ、学外の研究者とともに多読読み物群を作成した。プロジェクトでは、研究代表者、分担者、協力者に加え、趣旨に賛同した研究者4名に協力を仰ぎ、留学生を中心とした日本語学習者にとって必要な読み物は何かということ議論するために7回に及ぶオンライン会議を重ね、7名のメンバーがそれぞれのテーマで4編以上の読み物を作成した。結果的に作成した読み物は、32編にのぼった。「読み手の知的好奇心を刺激する読み物」を目指しノンフィクションの分野で4編以上の連作という、それまでの多読の読み物とは性質が異なる読み物群となった。 また、これを無料で公開するためのウェブサイト「たどくのひろば」(https://tadoku.info)を開設した。本サイトでは、現代社会再考プロジェクトの読み物をはじめとした読み物を、クリエイティブコモンズライセンスを付して無料で公開し、さらに多読に関連する研究情報、多読の実践に必要な情報を掲載している。 さらに、「現代社会再考プロジェクト」で作成した読み物群を日本語教育関係者に広く周知するとともに多読について考える場として、公開パネルディスカッションを実施した。ディスカッションの様子をオンラインで中継し、国内外から249名の参加者が参加した。このパネルディスカッションを記録として残すために、当日の様子を映像化しウェブサイト上で公開した。 また、日本語教育学会秋季大会、及び日本各地で行われる日本語教育学会支部集会の中国支部、北海道支部、東北支部、関西支部で開かれた「交流ひろば」に出展し、本ウェブサイトの周知と多読についての意見交換に努めた。 その他、関連学会において研究成果報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度における計画として、当初、多読の読み物の作成、多読の効果の測定、日本語教育関係者に対して多読への理解を深めることを予定していた。これらのうち、多読の読み物作成については、「現代社会再考プロジェクト」を立ち上げ、本事業に関係する研究者以外の研究者による協力を得ながら、まとまった読み物群を作成することができ、さらに、それらを公開する場としてウェブサイトも開設した。また、作成した読み物群とウェブサイトを広く周知するために、パネルディスカッションを開催し、さらに日本語教育学会やその支部集会に参加して、多くの日本語教育関係者と意見交換を行った。これらを通して、一定程度日本語教育関係者への多読への理解も深まったと思われる。 残る一つの課題である多読の効果の測定については、新型コロナウィルス感染症が世界中で広まったことにより、滞った。当初の予定としては、来日した留学生に対して調査を行う予定であったが、感染症の影響により留学生の来日が停止され、国内にいる留学生も帰国し、留学生がいなくなるという事態となった。そのため、国内で予定していた調査が行えなくなった。また、海外にいる研究協力者に調査を依頼することも代替案として考えられたが、海外の研究協力者が在籍する大学はもとより、都市自体がロックダウンされ、学生も研究者も全く対面で会わない状況となっていた。本調査は、日本語学習者に実際に本を読んでもらうという活動を伴うため、対面で行う必要がある。このような理由から効果の測定については、調査を延期している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画としては、まず、引き続き多読読み物の作成を続け、日本語学習者が無料で読める読み物の数を増やしていくことが挙げられる。本年度の「現代社会再考プロジェクト」では、現代の社会的なことがらを取り上げる内容が中心であったので、今後は異なる視点の読み物を充実させていく予定である。完成した読み物は、そのつどウェブサイトで公開する。 また、読み物を作成すると同時に、読みの助けになるようにそれぞれの読み物に朗読音声を付すことを計画している。朗読音声を付すことで学習者の理解が促進され、読みの活動が活発化することが期待される。 日本語教育関係者へ多読の理解を深めることについては、講演やセミナー等を開催することによって継続して行う。 新型コロナウィルス感染症によって滞っている、多読の効果の測定については、状況が改善され留学生の来日が再開され次第、調査を進める予定である。 次年度に行う新しい試みとしては、語いリストの作成が挙げられる。読み物作成の際には、文章の日本語レベルの調整のために、語いリストがあったほうが望ましい。語いレベルの指標として、多くの日本語研究者は『日本語能力試験出題基準』を参照しているが、これは旧日本語能力試験についてのものであり、新版となった日本語能力試験に直接は対応していない。新日本語能力試験は、その出題基準が公表されていないため、現在、指標となる語いリストがない状況である。それを補うべく、公刊されている日本語教科書のうち、比較的多くの教育機関で使用されているものを対象として、そこで使用されている語いを抽出し、リスト化することを計画している。複数の教科書から語いを抽出することで、ある程度一般化されたレベル別の語いリストの作成を目指す。
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