研究課題/領域番号 |
18H00724
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
武内 房司 学習院大学, 文学部, 教授 (30179618)
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研究分担者 |
小武海 櫻子 学習院大学, 文学部, 助教 (00748874)
倉田 明子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (20636211)
高柳 信夫 学習院大学, 付置研究所, 教授 (80255265)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 中国近代史 / 宗教史 / 華人史 |
研究実績の概要 |
令和元年度は,主として以下の研究活動に取り組んだ。 1) 本プロジェクトが主として取り組んでいる「近代中国における宗教間対話」の歴史的展開を明らかにするための基礎作業として,東京大学東洋文化研究所所蔵の羅仲藩『覚世集』の訳読会,並びに五教合一論に関する個別研究報告会を開催した。 2) 以下の海外調査を実施した。研究代表者の武内房司,分担研究者の小武海櫻子,研究協力者の持田洋平の3名は,2019年8月から9月にかけて,マレーシアのペナン島及びイポーを訪問し,儒仏道三教合一系統に属する仏堂・精舎等の宗教施設の調査を実施した。また,ペナンにおいては,マレーシアにおける華人宗教史の専門家であるWang Chen-fa教授(馬來西亞道理書院院長)と学術交流の機会を持ち,また,同教授の案内でペナンの民衆宗教施設を見学することができた。 3)他の分担者の活動は以下の通りである。ア)分担者の高柳信夫は,主に,1910年代後半以降,「民主と科学」の提唱,「儒教」や「迷信」の批判を中心に展開された「新文化運動」につき,従来主流とされた『新青年』グループとは異なる「新文化」を追求した梁啓超らの思想的営為を中心に研究を進めた。イ)分担者の倉田明子は,6月に香港で第11回近代中国キリスト教史国際シンポジウム「華人教会と世界教会」に参加し,キリスト教の一致運動と宗教対話を行った中国宣教師に関する論文を発表し,また香港で起こった反逃亡犯条例運動に関する論文集『香港危機の深層』の編著に当たり,12月に刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海外調査においては,マレーシアのペナン島及びイポーにおいて,五教合一論の基礎となる中国近世から近代時期の儒仏道三教合一思想の影響を色濃く受けた仏堂・精舎などの宗教施設を見学し,多くの宗教文献を収集することができた。これらの文献は一般の公共図書館や学術機関では収書の対象とはなっておらず,これまで紹介されることのなかったものがほとんどであり,19世紀後半から20世紀前半期の華人宗教運動の展開を辿るうえで貴重なものである。また,マレーシアにおいては,Wang Chen-fa 教授との学術交流の機会を得たことも大きな収穫であった。同氏の案内で,ペナンの仏堂を訪問し,以前,ベトナム調査で目にすることができたものと同一系統に属する諸宗教文献を実見し,改めて華人系民衆宗教の東南アジアにおける広汎な広がりにを確認することができた。 こうした調査・学術交流をつうじ,東南アジア華人社会が三教合一を受容し展開させていく重要な基盤となっていたことを改めて認識とともに,近代における五教合一論への展開が東南アジアにおいてどのように現出したかについて具体的に検証することが重要な課題であることが一層明確になった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度および本年度の資料調査及び合同研究会をつうじて,五教合一論の基底にある三教合一思想の展開が重要な意味をなすことが改めて確認された。今後は,こうした三教合一思想のうえにどのように近代的諸要素が付加され,宗教間の対話や宗教運動の活性化が図られていったかについて考察を深めていきたいと考える。 その際に,植民地体制下にありより直接的に近代世界と立ち向かう必要に迫られていた東南アジア華人社会への五教合一思想の伝播と展開の過程に着目することで,本プロジェクトが目指している課題に接近することができると判断される。コロナウィルス禍により最終年度の海外調査及びシンポジウム開催が困難な状況にあり,プロジェクトの遂行に多くの制約が生まれていることは事実であるが,これまでマレーシアやベトナムなどでの海外調査をつうじて収集してきた宗教文献は上記の課題を解明するうえで多くの可能性を秘めており,これらの文献の整理や文献解題の作業をつうじ,三教帰一論から五教合一論への展開の過程を辿ることは十分可能である。そうした作業をつうじ,中国近代のキリスト教や改革運動期の思想・宗教運動との関係に留意しながら,中国近代時期に現出した宗教間対話の具体相を辿っていくことを目指したい。
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