研究課題/領域番号 |
18H00735
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
三宅 裕 筑波大学, 人文社会系, 教授 (60261749)
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研究分担者 |
丹野 研一 龍谷大学, 文学部, 准教授 (10419864)
本郷 一美 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 准教授 (20303919)
前田 修 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (20647060)
近藤 修 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (40244347)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 西アジア / 先史時代 / 都市的様相 / 長距離交易 / 工芸技術 |
研究実績の概要 |
これまで西アジアでは、チャイルドの「新石器革命」論に代表されるように、農耕・牧畜の開始によって社会が大きく変化したと評価されてきたが、近年では農耕社会が形成される以前に、社会の複雑化がすでに進展していたことを示す資料が蓄積されつつある。本研究では新石器時代初頭の集落であるハッサンケイフ・ホユック遺跡から得られた資料の分析を核として、公共建造物、工芸技術、葬制、シンボリズムの発達や長距離交易ネットワークの形成などに注目しながら、西アジア新石器時代における社会の複雑化の状況を究明することを目的としている。 ハッサンケイフ・ホユック遺跡では、石灰岩の立石をともなう公共建造物が集落の中央から検出され、同様の性格をもった建物が、ほぼ同じ場所に連続的に構築されている状況が明らかになっている。2019年に実施した発掘調査でも、下層から新たに2基の公共建造物が検出され、長期にわたって頻繁に建て替えがおこなわれてきたことが改めて確認された。特に、下層の遺構には白色プラスターが壁に塗られていたことが確認され、これらが特別な建物であることを補強する結果が得られた。また、遺跡の北西斜面において、方形プランの建物が確認され、遺跡が廃絶される直前の時期の良好な資料も得ることができた。 発掘調査と並行して、これまでの調査で出土した資料の調査もおこない、多量に出土している製粉具、打製石器、動物骨の分析を進めることができた。さらに、石製容器、石製・骨製装飾板などに表現された動物像などについても検討を進め、ヘビ、サソリ、猛禽類などの図像が多いことから、危険であるが特別な力をもっているこれらの動物が憧憬の対象になり、当時のコスモロジーの中で主要な地位を占めていた可能性が指摘できるようになった。これらの図像が表現されている器物が特定の墓から出土していることから、エリート層の存在もある程度想定できるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度には、トルコ南東部の新石器時代の遺跡ハッサンケイフ・ホユックにおいて、補足的な発掘調査を実施することができ、新石器時代における社会の複雑化を検討するための新たな資料を得ることができた。今回の調査により、集落の中央部においてほぼ同じ場所に構築されている公共建造物の調査をさらに進めることができたほか、一般の住居を含め床下埋葬を10基ほど検出することができ、そこからはシンボリズムに関連する資料も得られた。また、新たに方形プランの建物を調査することができ、集落構造の変遷の把握にも大きな前進があった。 また、現地調査の際には、これまでに出土していた資料の分析をおこなうことができ、磨製石器については型式学的な検討に加え、レプリカ法による使用痕分析のための試料採取をおこなうことができた。それについては、日本において顕微鏡による観察作業を進めている。また、石製ビーズや矢柄研磨器とされる遺物についても、新たに試料を採取することができ、同様の方法で分析を進めているところである。 黒曜石の産地分析も順調に進んでおり、打製石器の分析結果と共に、国際学会において口頭発表をおこなった。このほか、長距離交易の重要な資料である海産貝類についても分析を進め、シンボリズム関連資料と共に西アジアの新石器時代の資料を集成し、比較研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はおおむね順調に進んでいると評価できることから、基本的にこれまでと同様の方法で研究を進めていくが、ハッサンケイフ・ホユック遺跡における発掘調査はほぼ完了したことから、今後は検出した遺構と出土した遺物の分析、他遺跡との比較研究に徐々に軸足を移していく予定である。出土遺物については、まだ現地の博物館等に収蔵されている資料に対して分析・観察を行なう必要があり、機会を見て実施していきたいと考えている。 問題点があるとすれば、新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴う活動制限の影響である。今後の状況は予測不能と言わざるを得ないが、当面は海外での調査・研究活動の実施が困難な状況にあることから、国内で実施できる活動を優先させ、状況が改善されるのを待ちたい。ハッサンケイフ・ホユック遺跡から得られた資料に関しては、一部の試料を除いて必要なデータはすでに手許にあり、国内で研究を実施していく体制は整えられていると言える。
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