研究課題/領域番号 |
18H00753
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小栗 慶之 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (90160829)
|
研究分担者 |
長谷川 純 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (90302984)
羽倉 尚人 東京都市大学, 理工学部, 准教授 (00710419)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 陽子線励起X線放出 / 蛍光X線分析 / 文化財 / 放射線損傷 / 赤外分光分析 |
研究実績の概要 |
文化財のうち,絵画等に用いられる青色顔料中の銅(Cu)の分析を想定し,Cuを含むゼラチン(膠を模擬)標準試料の組成の一様化,表面の平滑化等の改善を行った後,これらのPIXRF(陽子線励起蛍光X線分析)測定を行い,Cuの検出下限の評価を試みた.Cuのみを低線量で選択的に励起するため,CuのK吸収端(8.98 keV)よりわずかに高いエネルギーのKX線(9.87 keV)を発生するゲルマニウム(Ge)単体標的を真空容器内に置き,2.5 MeV陽子線を照射した.発生したGe-KX線をX線キャピラリーレンズで上記ゼラチン試料上に集束させた.試料から発生した二次X線をCdTe半導体検出器で測定し,目的とするCuのKX線を同定することができた.しかし,特性X線の収量やノイズレベルが安定せず,Cuの検出下限の評価は困難であった.また並行してX線照射によるゼラチン試料の損傷に伴うFT-IRスペクトルの変化を検出するため,試料の支持・固定方法等の改良を行った結果,FT-IRスペクトルの測定結果に多少の再現性向上が認められた. 一方,実試料の分析に必要な一次単色X線強度を達成するため,一次陽子ビーム源であるイオン源から加速器への入射系,加速器本体,ビーム輸送・集束系に至る加速器系全体の運転条件の最適化及び構成機器の改良を行った.特にイオン源については現有の横引き出し型冷陰極PIG負イオン源に対し,プラズマ閉じ込め磁場による不必要なイオンの偏向を補正磁場により修正してビーム出力を向上させる作業を行った.その結果,ビーム強度の改善が見られた.ビームエミッタンス測定も行い,ビーム電流に与える補正磁場の効果が確認できた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ゼラチン試料中のCuの検出下限の評価を試みたが,異なる濃度の試料に対する特性X線収量や散乱X線によるノイズレベルの応答が安定せず,信頼できる検出下限データを得るための感度曲線とバックグラウンドデータを取得できなかった.またX線照射によるFT-IRスペクトルの変化を検出するために試料の固定方法等も改善したが,依然としてスペクトル形状の測定の再現性は十分でなく,照射線量と吸収ピーク強度の変化の間に明らかな相関は見出せなかった. 一方,実試料の分析に備えてイオン源から集束系に至る加速器系全体の運転条件の最適化及び構成機器の改良を行ったが,一次陽子ビーム電流の向上は数10%程度にとどまり,実験に十分な強度には達しなかった.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,まず励起用単色X線の出射口から測定試料及びX線検出器までを一体化して固定できる支持構造を作製し,各要素の相対的位置を安定化させて再現性の向上を試みる.材質の違いによるノイズレベルへの影響も調べ,X線収量を安定に測定できる条件を見出す.他方,試料作製に関しては昨年度実施できなかった水分の制御を行うため,専用の乾燥・加湿器とグローブボックスを用意して試料作製時に入念な温度・湿度管理を行う.これによりFT-IR測定の再現性向上を目指す.これらの整備の後,昨年度に引き続いて上記試料のPIXRF測定及び放射線損傷の評価を行う.この結果を陽子線直接照射,すなわちPIXE分析法の場合と比較し,低線量高感度元素分析手法としての性能を調べる. 一方,今年度はイオン源の磁場強度を増やしてプラズマ密度の増大を図る一方,補正磁場も強化して高強度のビームを引き出せるよう改良を行う.これにより,昨年度に引き続いて一次陽子ビーム電流をX線発生用金属標的上で数マイクロアンペアまで増強させる.
|