研究課題/領域番号 |
18H00756
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
南 雅代 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (90324392)
|
研究分担者 |
若木 重行 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 高知コア研究所, 技術研究員 (50548188)
淺原 良浩 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (10281065)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 火葬骨 / バイオアパタイト / 炭素14年代 / 食性解析 |
研究実績の概要 |
従来の出土骨を対象とした考古化学研究では、骨の有機成分であるコラーゲンを抽出し、その主成分である炭素・窒素・酸素の同位体を利用することにより、年代測定や食性解析などが行われてきた。しかし、高温の熱を被り、有機物が分解してしまっている火葬骨には従来の手法は適用できない。本研究では、骨の無機成分であるバイオアパタイトに注目し、火葬骨の炭素14年代測定に加えて、ストロンチウムの3つの同位体比(87Sr/86Sr、88Sr/86Sr、84Sr/86Sr)を組み合わせたマルチSr同位体分析により生前の食性の情報を得ることを目的としている。 2019年度は、奈良県持聖院より出土した蔵骨器内の貞慶(AD1155-1213)の火葬骨、滋賀県敏満寺石仏谷墓跡より出土した中世の火葬骨を試料とした。貞慶の火葬骨の結果から、埋葬後、土壌に埋没している間に受けた二次的変質作用の定量的評価として、骨中のBa量がよい指標であることが明らかになった。その結果を踏まえ、Ba量が少なく、二次的変質の少ない白色骨片のみを選んで、高精度炭素14年代測定を行った(Minami et al., 2019 Radiocarbon)。さらに、マルチSr同位体分析を行い、貞慶は草食の傾向が、敏満寺に埋葬された人々は肉食の傾向が強く、栄養段階が異なることを明らかにした(若木・南、日本文化財科学会第13回ポスター賞)。 石仏谷墓跡に埋没している人の生存地域を明らかにするため、周辺地域を流れる河川(宇曽川、犬上川、芹川)から地質試料を採取し、87Sr/86Srを測定した。石仏谷墓跡の火葬骨は敏満寺周辺土壌の交換態成分、そして芹川の河川水に近い87Sr/86Srを示した。このことから、石仏谷墓跡には、敏満寺周辺もしくは芹川の河川水を利用可能な地域で生活していた人々が埋葬されている可能性が示唆された(澤田ほか, 2020)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
貞慶の火葬骨の炭素14分析結果が、Radiocarbon誌(Minami et al., 2019) に掲載され、貞慶と敏満寺に埋葬された人々のマルチSr同位体分析に関する発表が、日本文化財科学会第13回ポスター賞を受賞するなど、順調に成果が得られた。敏満寺石仏谷墓跡より出土した火葬骨に対しては、炭素14年代その他でも非常に興味深い結果が得られつつある。滋賀県多賀町周辺の地質試料を追加採取してSr同位体比を測定し、植物と埋敏満寺遺跡石仏谷墓跡から出土した火葬人骨の値を解釈するための基礎データを揃える。この基礎データを元に、埋葬されている人の出自を探る研究も、本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度、滋賀県多賀町の敏満寺遺跡石仏谷墓跡から出土した火葬人骨をいくつか分析した結果、埋葬地区によって年代や食性に違いが見られ、考古学的に非常に有益な試料である見込みが得られた。そこで、出土人骨が保管されている多賀町立博物館に出向き、地区ごとに、厳密な試料の追加採取を行ない、現在、これらの追加試料に対して炭素14年代測定を行いつつある。2020年度は、年代付けされたこれらの試料にマルチSr同位体分析を行い、さらに安定炭素同位体比の結果を組み合わせて、生前の食性の情報を得る試みを行う。地区ごとの年代、食性の特徴を明らかにし、考古学的知見と合わせて、研究論文としてまとめる。 一方、滋賀県多賀町周辺の地質試料の分析(澤田ほか, 2020)から明らかになった問題点を解決するため、植物を追加採取してSr同位体比を測定し、植物と埋敏満寺遺跡石仏谷墓跡から出土した火葬人骨の関係性についてもっと詳細に調べる。得られた関係性を元に、埋葬されている人の出自を探る研究を実施する。以上の結果については、総合論文にまとめる。 2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大で国内・国際学会が延期・中止になる可能性が高いため、論文執筆に時間を回し、本研究課題をまとめることに集中する。
|