研究課題/領域番号 |
18H00758
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
園田 直子 国立民族学博物館, 人類基礎理論研究部, 教授 (50236155)
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研究分担者 |
日高 真吾 国立民族学博物館, 人類基礎理論研究部, 教授 (40270772)
末森 薫 国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 機関研究員 (90572511)
岡山 隆之 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 理事 (70134799)
小瀬 亮太 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (60724143)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 酸性紙 / 強化処理 / 微細セルロースファイバー / 脱酸性化処理 / 保存環境 |
研究実績の概要 |
セルロースナノファイバーなどの微細セルロースファイバー(FCF)塗布による強化処理では、研究代表者である国立民族学博物館の園田直子、東京農工大学の岡山隆之(研究分担者)、前高知県立紙産業技術センター所長の関正純(研究協力者)が、適宜、FCFの調製条件や塗布条件を精査し、研究計画の遂行を促進した。 経年劣化紙の強度向上処理に適したFCFの製造開発は、水中カウンタ・コリジョン装置(研究協力者の殿山真央が所属する高知県立紙産業技術センター既存設備)を用いて、東京農工大学研究分担者チームの岡山および小瀬亮太を中心に進めた。 FCF塗布実験は、東京農工大学研究分担者チームおよび当該研究室に所属する学生1名が担当した。FCF塗布実験は、劣化紙資料をドライ・アンモニア・酸化エチレン法またはブックキーパー法によって脱酸性化処理後、水で湿潤させた紙表面にFCF懸濁液を塗工し、真空乾燥する手法を検討した。また、FCF塗布による劣化紙の強化処理の実用化には、大量強化処理に向けて工程のシステム化、特に連続的で均質なFCF塗布を実施できる工程の設計が重要となる。そこで、紙を湿潤状態にした後、小型サイズプレスを用いて、2ロールサイズプレス方式によって紙の両面に均一なFCF塗液膜を作成する手法を検討した。 開発された手法が文書資料等の文化財に安全に適用できるかの検証に関しては、FCF塗工後の紙表面の状態を三次元画像データにより確認する手法を国立民族学博物館の末森薫(研究分担者)が検討した。園田と同館の日髙真吾(研究分担者)は保存環境の調査をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FCF塗布実験においては、脆弱化した劣化紙資料をドライ・アンモニア・酸化エチレン法またはブックキーパー法によって脱酸性化処理後、水で湿潤させてからFCF懸濁液を紙表面に塗工し、真空乾燥する手法を検討した。FCF塗工後の紙資料の強度、とくに紙の引裂強さとゼロスパン引張強さの向上、ならびに耐折強さの低下抑制効果が確認された。塗工後に40℃で真空乾燥処理を施すと、60℃真空乾燥や80℃回転乾燥にくらべて、紙の引裂強さの向上が顕著であった。また、加速劣化試験によってもFCF塗工による劣化抑制効果が示された。紙資料の強化および劣化抑制効果は、靱皮繊維、機械パルプ、針葉樹亜硫酸パルプなど異なる繊維組成を有する内外の酸性紙で確認された。 FCF塗布による劣化紙の強化処理の実用化に関しては、小型サイズプレスを設計し、そのプロトタイプが年度内に完成した(東京農工大学に設置)。強化・劣化抑制効果を得る適切な塗工量を、ばらつきなく塗工するにあたっては、今後、コーティングロッド(ワイヤーバー)の種類、コーティング速度、2本のコーティングロールの間隙、CNF塗工液の濃度など塗工条件の最適化を図るための条件設定が必要である。 FCF塗工後の紙表面の状態を三次元画像データにより確認したところ、FCFの繊維を画像として捉えることはできなかったが、断面画像の比較によりFCF塗工によって紙の厚みが均一となり、古紙の表面が平滑になっている状況を確認した。 保存箱内、棚の中、部屋、それぞれにおける温度湿度をモニタリングすることで、外部の温度湿度の変動がどの程度、棚および保存箱の中で緩衝されるのか、継続的にデータを蓄積した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究代表者らは、劣化した酸性紙資料の強化処理と同時に、劣化抑制効果を付与することを目的として、自然劣化した酸性紙にドライ・アンモニア・酸化エチレン(DAE)処理またはブックキーパー(BK)処理のいずれかの脱酸性化処理を施した後、湿潤処理の上、FCFコーティングによる強化処理を行う手法を検討したところ、引裂強さおよび引張強さの向上効果だけでなく劣化抑制効果が示された。実用化に当たってはFCF塗工後の乾燥処理を常温付近で実施することが不可欠であり、乾燥方法、乾燥温度および乾燥時間について検討したところ、約40℃の真空乾燥処理が適していた。また、劣化紙のFCFコーティングを実用化することを目的として、連続的なコーティングを可能にする小型サイズプレスを試作した(昨年度、東京農工大学に導入済)。 今後は、試作した小型サイズプレスを用いてFCFをより効果的に塗工する手法を技術的に確立する。 コーティングロッド(ワイヤーバー)の種類、コーティング速度、2本のコーティングロールの間隙、CNF塗工液の濃度など塗工条件の最適化を図り、安定したFCF塗工量コントロールを可能にする塗膜形成法を確立する。加えて、ボール衝突タイプチャンバー(東京農工大学に導入予定。既存設備のチャンバーを交換、改良する。)を取り付けた水中カウンターコリジョン装置を用いて、パルプ繊維の粉砕条件の異なるFCFを調製して材料面からも最適化を図る。 これまで検討したコーティングロッドを用いた手塗り塗工による試験結果と比較しながら、小型サイズプレスを用いたFCF塗工の品質を最適にコントロールすることによって実用化に向けた大量強化処理法の確立を図る。あわせて、開発された手法が文書資料等の文化財に安全に適用できるかの検証をかさねるとともに、保存環境調査を継続する。
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備考 |
・園田直子、橋本沙知「アジア紙のPy-GC/MSによる繊維分析 -国立民族学博物館における適用例 -」日本学術振興会二国間交流事業協同研究国際シンポジウム(代表者:稲葉政満)、2018年11月16日 ・第85回紙パルプ研究発表会における「FCF塗工強化処理に及ぼす酸性紙の脱酸性化の影響」は、若手優秀賞 ポスター発表部門を受賞した。
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