本研究は現在海底で保存されている元寇沈船の引き上げ・保存処理を実現するために必要な保存科学的研究を行なうもので、次の2つを目的として研究を進めてきた。 1.太陽熱集熱装置を製作し、海底遺跡出土大型木器の保存処理を実施する。 2.トレハロースによる海底遺跡出土木器の鉄部錆化抑止のメカニズムを解明する。 1は、松浦市立鷹島埋蔵文化財センターの4mの含浸処理槽に適合させるための装置を製作し、同センターに設置した。最終年度はこの装置を用いて、実資料の保存処理を開始し、問題なく含浸処理が進んでいる。2は、トレハロース法を用いた場合に劣化が生じない原因を究明すべく、昨年度に引き続き作成した粉体圧縮試料を様々な温度・湿度条件下で劣化させる実験やトレハロースの吸湿実験等を行なった。これらの研究成果については、日本文化財科学会(於:別府大学)、トレハロース含浸処理法研究会(於:島根県埋蔵文化財調査センター)で発表を行なった。 これらに加えて、トレハロースの起晶性を明らかにするために顕微鏡下での動画撮影や、木材中でのトレハロースの固化状態を調べるため濃度毎にその分布を静止画撮影等を行なった。これにより、過飽和状態のトレハロース水溶液の起晶性は非常に高く、ごく短時間のうちに結晶化(一次固化)を終えることが明らかになった。木材中でのトレハロース固化物の観察から結晶やガラスが混在していること、また、含浸したトレハロース水溶液の濃度が上がるにつれて最初に細胞壁内に浸み込み、続いて細胞壁表面に付着し、高濃度では道管内を満たすように固化していることが分かった。これらの成果についても日本文化財科学会で発表した。
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