研究課題/領域番号 |
18H00778
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
宮本 律子 秋田大学, 国際資源学研究科, 教授 (30200215)
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研究分担者 |
森 壮也 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 新領域研究センター, 主任調査研究員 (20450463)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ろうコミュニティ / 手話 / 東アフリカ / 言語動態 / 祖型 |
研究実績の概要 |
新型コロナの世界的な蔓延及びその後の調査地でのエヴォラウィルスの発生等により,現地調査が全くできなくなり、主に文献調査を実施した。その結果分かったことは次の通りである。 ウガンダ:最初のろう学校が設立された1960年代から70年代にはイギリス手話(BSL)と古ウガンダ手話(UgSL)とが使われていたが、その後、1980年代に入って,米国でアメリカ手話(ASL)を学んだろう者がナイジェリアを経て,帰国し,ろう学校で教え始めたが,このことが,ASLがUgSLよりも上等な言語として受け入れられるという事態を引き起こした。これにより,BSLと古UgSLとが使われていた土壌でASLがそれを上塗りする強力な言語として存在するに至った。同時に米国からの教員ボランティアの受け入れも拡大し,ウガンダ手話におけるASLの影響力が拡大した。 タンザニア:タンザニア手話(TSL)の背景でケニアやウガンダと異なる点としては,スカンジナビア諸国の手話の影響がある。ろう学校創設が始まった1960から70年代、タンザニアは社会主義国だったので,英国,アメリカ合衆国等の団体が入りにくく、親米路線をとった隣国ケニアとも鋭く対立していた。もう一つは,ニエレレの,伝統的なアフリカ的社会主義に立脚し,争いのない平等な社会の実現に向けて集住化・集団農場の経営,スワヒリ語による初等・成人教育を徹底するといった考え方に共感するスカンジナビア諸国のNGOが多かったためである。1970年代~80年代には50ものスカンジナビアの宣教団体が存在したという。Tcherneshoff(2019)は,フィンランド手話(FSL)とTSLの基礎語彙を比較すると,約43%が同じか近いことから,FSLからTSLへの影響が強いと結論付けている。このようにTSLの背景はUgSLとはかなり異なることがわかってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナの世界的な蔓延及びその後の調査地の一つウガンダでのエヴォラウィルスの発生等により,現地調査がまったくできなくなり、予定通りの情報収集ができなかった。そこで主に文献収集をおこなったが、文献にはない情報を手話使用者に確認する必要があり、インターネットを使ってできる限りの確認をおこなった。しかしながら、手話を話す人たちとは文字ではなく動画でやり取りをする必要があり、そのために、現地インフォーマントには負担できないほどの膨大な通信料がかかってしまい、なかなか思うように情報確認ができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの遅れを取り戻すべく、渡航可能な状況になり次第、ウガンダ、ケニア、タンザニアを訪れ,ろう者団体を訪問し、複数の手話話者を対象に、手話言語学ワークショップを開催して議論を行い、語彙、音韻、語順、語用論の点から詳細な記述を試みる。
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