本研究課題遂行の期間に実施したペルー北部山地のクントゥル・ワシ神殿遺跡の下方テラス部分の発掘調査で得られた出土資料について、現地で総合的な分析をおこなった。 具体的には、2019年におこなった同遺跡第4テラスの発掘と、2022年におこなった第3テラスの発掘調査資料の分析である。土器およびその他の人工遺物の総合的分析によって、第4テラスでは編年上第2時期目のクントゥル・ワシ期と第3時期目のコパ期の堆積層が確認され、この区域が形成期後期に建設・使用されたことが明らかとなった。また、同時にコパ期には複数の墓が検出されているため、それらの被葬者について形質人類学の研究協力者とともに、性別や年齢、病変等について記載した。 一方、第3テラスでは、少なくとも発掘調査した範囲においては、形成期中期にあたる第1時期目のイドロ期の堆積層のみであったことがあらためて確認された。イドロ期の考古資料は同遺跡ではこれまで十分ではなかったため神殿の成立過程解明するにあたって重要な成果であったといえる。とりわけ、神殿の資源利用という本研究課題の視点からも、第3テラスの出土遺物には、海産の貝や方ソーダ石など遠隔地資源を原料とした出土品が含まれており、形成期中期にさかのぼる時期の遠隔地との交流ネットワークが神殿成立の背景となっていたとの見通しが得られた。 これまでは、中央アンデス地帯一般において、遠隔地との交流が大きく活発化するのは形成期後期になってからと考えられてきたが、当該地域では、それに先立つ形成期中期から遠隔地の交流をおこなってきた背景があり、とりわけクントゥル・ワシ神殿の場合には、そのことが大きな要因となって新しい神殿が建設され、さらに形成期後期の社会複雑化が進行したことが明らかとなった。
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