研究課題/領域番号 |
18H00789
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研究機関 | 国立歴史民俗博物館 |
研究代表者 |
川村 清志 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (20405624)
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研究分担者 |
内田 順子 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (60321543)
岡田 浩樹 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (90299058)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 協働 / 民俗誌 / 文化継承 / マルチメディア / 映像民族誌 / 共創 |
研究実績の概要 |
2020年度に引き続き今年度も、コロナ禍のために,予定していたフィールドワークと映像撮影の多くが実施できなかった。結果的に今年度は、すでに資料の蓄積のあった地域についての成果物の整理とその公開を中心に行うことになった。 まず,調査地である石川県輪島市において夏祭りのフォトエスノグラフィー『石川県輪島市皆月山王祭 祭日編』を一般に紹介し、成果を視覚化するためにフォトエッセー『曳山に集いて明日を見つめて』を3回に分けて『REKIHAKU』誌上に連載した。また、コロナ禍が拍車をかけた地域の空洞化を象徴する春祭り行事の縮小と行事の縮小を同地区の青年会の視点から捉え直した『春祭りをもう一度ー皆月青年会の軌跡ー』を製作し、「東京ドキュメンタリー映画祭」に出品した。 同じく先行的な地域である宮城県七ヶ浜町では,地域の団体や東日本大震災以後のNPO活動に従事していた人たちとの協働作業のもとに震災以後の文化復興に関する映像民俗誌の制作を進め、「震災の記憶をつなぐーあの日の僕、七ヶ浜3.11ー」として完成させた。また,これまでのフィールドワークの記録と震災以後の営みについてのインタビューを,ブックレット『あの日の僕ー七ヶ浜3.11ー』としてまとめた。 宮城県気仙沼市については,地域の文化として表象される虎舞と鹿踊りに注目しつつ,それらの文化財化に尽力したキーパーソンとの協働作業のもとにサスティナブルな文化継承のあり方についての調査を行った。沖縄県宮古島についても,地域の伝統的な祭祀組織の保存継承に尽力しているキーパーソンとの協働作業を模索したが、実際の調査を行うことはできなかったため,これまで撮影した映像資料の整理作業に従事した。また,兵庫県明石市についても,実地での調査が十分にできなかったため,これまでの聞き取り資料や映像資料のアーカイブ化に務めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
以下に述べるような理由から、研究調査全体としては、やや遅れていると判断した。まず、沖縄県宮古島での祭礼調査と地元郷土史家への聞き取りは、二年間にわたり調査ができておらず、行事そのものの再会も難しい可能性があるため、現在、これに代わる調査を模索中である。 同様に宮城県気仙沼市での現地調査、並びに撮影についても、行事そのものが中止となり、実施できなかった。そこで限られた回数であったが、調査予定の民俗芸能の文化財指定をはじめ、保存・活用に尽力した地元在住のS氏のインタビューを行った。地域社会の文化財行政における文化概念の展開過程とライフヒストリーを合わせて記録撮影したが、この調査も作業半ばにして途絶している。 さらに兵庫県明石市でも、大蔵谷地域の祭礼行事そのものが中止となり、付帯する形で行う予定であった映像民俗誌の撮影も実施できなかった。明石市では過去の祭礼の映像記録をインフォーマントとともに閲覧することで、映像資料のアーカイブズ化も予定していたが、対面的な状況での聞き取り調査が困難なため、映像のデジタル化を限定的に行うにとどまっている。 また、石川県輪島市においては、これまでの研究蓄積があり、すでに記したような形で、成果報告を行うことができたものの、現地の祭礼は休止状態であるうえに、祭りの主体となっていた青年会自体の運営が危機的な状況にある。調査の経過次第では、協働とはいわば相反する側面についても、提示する可能性がでてきた。以上のようにおしなべてコロナ禍によってフィールドワークが途絶しており、本プロジェクトのもっとも大きな目的である協働での民俗誌制作が困難となっている。これらについてもインターネットやズームなどのメディアの利用によって部分的な進捗をみたものの、全体としての遅れは否めないと言わざるをえない。
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今後の研究の推進方策 |
基本的な研究推進策としては、これまで実施できなかった調査研究を実施し、調査対象地域での協働の民俗誌について、映像を中心として制作したいと考える。ただしコロナ禍のため地元での行事そのものが流動的なため、新たな映像記録が製作できるかどうかは不透明な状況にある。そこでこれまでの画像資料や文字資料のアーカイブズの協働で製作することを当面の目的としたい。 まず、石川県輪島市の七浦地区については、地元に残る同窓会誌の文字データについて、地元公民館の有志とともに整理し、アーカイブズ化行う予定である。可能ならば地元で祭礼の主体となっていた青年会の文書資料と画像資料についても、アーカイブズ化を進めたいと考える。また、同じ石川県の珠洲市で行われている地域市民と地元の自治体が共同で推進している地域の民俗資料の保存・活用事業の調査研究を可能な範囲内で行っていく。 宮城県気仙沼市では、地元の民俗芸能の文化財化に尽力したS氏の聞き取り調査を継続し、さらに同保存会の前会長へのインタビューを中心とした映像記録を編集していく。また、地域文化の協働作業の実践事例として、同市のリアス・アーク美術館における生活文化や震災に関わる展示表象の検証を行う。兵庫県明石市の事例では、かつての祭礼の写真資料と映像資料のデジタル化を継続し、祭礼の中心である獅子舞保存会の役員や会長など、民俗芸能の保存・活用を推進した人たちのインタビューを行う。 最後に沖縄県の事例については、感染状況が好転しない宮古島での調査が不可能な場合、沖縄県出身の写真家で宮古島の祭礼の記録写真でも知られる比嘉康雄のアーカイブズ作業を促進し、沖縄と八重山地方との地域間での人的交流から生じた文化の再表象について検証する。また、国立歴史民俗博物館にある沖縄県八重山地方の映像民俗誌の再解釈を行い、未編集の映像を含めたアーカイブズ化作業を試みる予定である。
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