研究課題/領域番号 |
18H00845
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
井伊 雅子 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (50272787)
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研究分担者 |
葛西 龍樹 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (80248228)
原 千秋 京都大学, 経済研究所, 教授 (90314468)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 医療情報 / 意思決定理論 / プライマリ・ヘルス・ケア / プライマリ・ケア / 費用対効果 / COVID-19 / ヘルス・コミュニケーション / infodemic |
研究実績の概要 |
意思決定理論で培われた「非合理」な効用関数や条件付確率を用いて、健康診断や医療行為全般の分析を試みた。非合理な効用関数を持つ主体が過剰な健康診断や治療を受けることを、不確実性下の意思決定問題として定式化し、その帰結の社会的厚生への含意を明らかにすることを試みた。 特に、医療従事者と患者が、検査や治療法を選ぶ際のリスクリテラシーの役割を検討した。“Patient Care Under Uncertainty” (Manski , 2019)や“Making Better Decisions” (Gilboa, 2011) などを参考に議論を行った。経済学で培われた「不確実性下の意思決定」の分析の枠組みと成果が、日本の臨床現場でも有 用であることが議論の結果明らかになった。 2020年8月に研究会を行った。報告内容は1) 医療従事者(clinician)と患者(patient)が検査や施術を選ぶ際のガイドラインを提示する試み。2) 英国におけるコミュニケーションを重視した医療人材養成の紹介 ①患者中心性(patient-centredness)や共同意思決定(shared decision-making)の医療教育、②統計の医療教育、③リスクコミュニケーションの医療教育の紹介、3) General Practice (家庭医療)とメディアの分析- メディアドクターの役割、4) 医療におけるメディアの役割に関する実践者として有名なDr. Graham Easton(ロンドン大学クィーン・メアリー校臨床コミュニケーション学教授、BBC科学ユニット上級プロデューサー)へのオンラインでのインタビュー、5) コロナ禍におけるInfodemicの問題とメディアの役割、6) 患者中心の医療の方法と不確実性
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19のために海外での学会報告がキャンセルになるなど、研究計画に変更が生じた。オンラインを活用した研究会を定期的に実施をして、研究自体は着実に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍でPCR検査が頻繁に行われるようになった。本研究ではがん検診を例として不確実性下の意思決定問題を考察してきた。がん検診とコロナ禍でのPCR検査の類似点として偽陽性問題がある。罹患性が低い疾病では、たとえ検査の感度・特異度が高くとも陽性時の実際の罹患率は非常に小さくなる。何らかの症状がある時に検査を行うと偽陽性は低くなる。 一方、がん検診とコロナ禍でのPCR検査の相違点として、不確実性の種類に関する違いがある。不確実性には2種類あり、一つは「リスク」、他方は「ナイト流不確実性」と呼ばれる。乳がんの罹患率のように過去の研究から確率がある程度知られている時の不確実は「リスク」にあたる。それに対してCOVID-19に関しては、2020年当時は統計も整っておらず、学理も確定しないため、確率計算がそもそも不可能である。この時にどのように検査を評価するべきか検討する予定。
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