研究課題/領域番号 |
18H00845
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
井伊 雅子 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (50272787)
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研究分担者 |
葛西 龍樹 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (80248228)
原 千秋 京都大学, 経済研究所, 教授 (90314468)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 医療情報 / COVID-19 / プライマリ・ヘルス・ケア / プライマリ・ケア / PCR検査 / Infodemic / ヘルス・コミュニケーション / 意思決定理論 |
研究実績の概要 |
意思決定理論で培われた「非合理」な効用関数や条件付確率を用いて、健康診断や医療行為全般の分析を試みた。2021年度はがんの罹患率のように過去の研究から確率がある程度知られている時の不確実性とは異なり、エビデンスの蓄積も少なく、確率計算がそもそも不可能であるCOVID-19のPCR検査の評価に関して検討した。 本研究ではこの状況を、事前確率が一意に定められない環境での曖昧さ回避的主体の意思決定問題として分析した。既存の文献では、曖昧さ回避的な意思決定主体が検査結果などに基づいて確率評価をアップデートする方法が複数提唱されているが、本研究では、動学的一貫性と帰結主義という2つの条件を満足するアップデート方法をとり上げ、合理的な意思決定への道筋を明らかにした。特に、PCR検査に関して妥当と思われる感度と特異度を仮定すると、動学的一貫性を課すことで、想定すべき偽陽性の(事前)確率の範囲の上限値が、そうでない場合の6倍超大きいことを示した。 2021年8月に研究会を行った。報告内容は1) Rational decision making when the sensitivity and the specificity of the PCR test are ambiguous, 2) “Less is more” 英国における過剰診断と対策、3) Decision making under uncertainty: An analysis of the UK decision to relax COVID-19 restrictions, 4) 「患者中心の医療の方法」に関する質的研究のレビュー
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19のために海外での学会報告がキャンセルになるなど、2020年度に引き続き研究計画に変更が生じた。オンラインを活用した研究会を定期的に実施をして、研究自体は着実に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、近年発展した、曖昧さ(ambiguity)を加味した意志決定の理論を援用することで、検査結果に基づいた施術・施策の選択問題を解き、政策提言に結びつけることを目的とする。 いかなる検査でも、実際の罹患・感染とは異なる結果(偽陽性・偽陰性)が得られてしまうことがある。それゆえ、検査結果に基づいて施術や施策を決める場合には、それが最善ではない可能性があるので、施術・施策はその可能性を加味した上で決められるべきである。多くの場合、この問題は確率論やベイズ統計の枠組で定式化されるが、COVID-19の場合には、議論の出発点となる確率が不明(いくつかの候補があることは明らかだが、そのうちのどれが真の確率であるかは不明)である。例えば、感染拡大初期や新型株(オミクロン株)が初めて確認されたときには、母集団(人口)の中での感染率が不明である。また、PCR検査や抗体検査といった、偽陰性の確率が異なる検査方法が同時並行的に行われ、なおかつ個々の被験者の検査方法が特定しにくい場合には、偽陰性の確率も不明であると想定すべきである。 本研究の研究メンバーには、経済学者だけではなく、大学所属の医学者、臨床医も含まれる。また、COVID-19の流行拡大に対する施策は国際間で大きく異なるので、実務面ではその比較も重要である。日英両国での臨床経験を持つ研究者との研究会を引き続き行う予定である。
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