研究課題/領域番号 |
18H00849
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研究機関 | 政策研究大学院大学 |
研究代表者 |
園部 哲史 政策研究大学院大学, 政策研究科, 教授 (70254133)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | managerial capability / non-cognitive skills / industrial development / Sub-Saharan Africa |
研究実績の概要 |
企業の経営者が、経理、マーケティング、品質管理などを驚くほど曖昧にしか理解していないことや、従業員とのコミュニケーションをうまく取れていないことは世界各地で観察される。しかし、その程度は先進国よりも途上国でいっそう著しいので、開発援助機関やNGOは、途上国の経営者たちが経営の基礎知識やベストプラクティスに触れる機会として、短期研修の開催などの取り組みをしている。最近は、その効果を測ろうという研究が増えつつあり、そのために経営の知識や実践を数量的に把握する手法が開発されるようになった。その手法が、組織の経済学と従来から呼ばれていた研究分野に、新しい発展をもたらしている。本研究もそうした手法をさらに改善させるものであり、経営知識の普及がとりわけ盛んなエチオピアにおいて、開発した手法を試し、知識の普及努力の成果を評価しようという研究である。2012年から14年にかけて同国で行った調査研究(研究課題「エチオピアにおける経営知識の普及の経済分析」)では、経営に役立つ知識を経営者が実際にどのくらい持っているのかを数量化することと、その知識をいつどのように獲得したのかを調べて効率的な知識普及のシステムを模索することを研究テーマとした。それに対して本研究課題では、そうした経営知識を企業が持続的に実践できるかどうかを測定する手法を開発し、それを使って持続的な実践のために何が条件となるかを解明することをテーマとしている。具体的には、質問票を使って多数の企業を対象とした調査を行い、各企業における知識や実践の程度と企業の業績や特性に関するデータを集め、知識の実践が業績に反映される程度が企業のどのような特性とどのように関係しているかを分析する。質問票には調査員が視認するべき事項や聞くべき質問が盛り込まれるが、それらを工夫することがすなわち数量的な把握のための手法の開発になる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2018年度は、検証するべき仮説を精緻化して質問票の原案を作り、質問票と企業調査の段取りを確定するための現地調査を行い、現地の調査研究機関Policy Study Instituteに委託して2019年1月から3月に首都アディスアベバにおいて企業調査を実施した。昨年度当初は、企業による経営知識の実践の程度を左右する要因についての認識が曖昧だった。企業が経営知識の持続的な実践に成功するには、経営者自らが従業員に話しかけ、知識の実践の大切さを説くことも重要だが、普及や実践の担当者を社内あるいは社外から選び、上手に担当者を使う必要がある。担当者がいろいろな工夫を加えなければ、社外から持ち込まれた経営プラクティスを従業員の間で定着させ機能させることは不可能である。最近の組織の経済学の理論によれば、そうしたクリエイティブな仕事には、試行錯誤を許す気の長いインセンティブシステムが必要になるという。社内に担当者がいるかどうか、そしてそうした仕組みができているかどうかを、経営者や従業員から聞きだすための質問を盛り込むなど、年度前半は質問票の改訂に時間を費やした。10月末から11月初旬にかけて行った予備調査には、国際協力機構(JICA)の職員として南アジア等で日本的経営手法の普及事業に従事した経験のある江原啓二氏を研究助手として帯同した。企業調査を委託したPolicy Study Instituteは、エチオピアの二つの政府系調査研究機関が2018年秋に急に合併してできた研究所であり、そのため契約締結が少し遅れた。しかし同研究所は、ほぼ予定通りのスケジュールで調査員をトレーニングして、ランダムに抽出した144社へ派遣し、経営者144名とその従業員533名から聞き取りデータを集めてくれた。その後は、データの入力間違いのチェックを行い、統計的分析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、前年度の調査対象企業に対してフォローアップ調査を行い、新しいデータを集めてパネル・データを構築する予定である。一回だけの調査で集めるクロスセクション・データと比べ、パネル・データは豊富でシャープな分析を可能とする。その強みは、たとえば経営のプラクティスと従業員の離職率との関係の分析で現れる。経済成長著しい途上国ではどこでもそうだが、従業員が企業から企業へ職場を変えることが多く、そのため従業員のスキルを高めることは難しく、生産性や品質の向上の妨げになる。同じ業種で同じ地域の企業の間でも、経営プラクティスによって離職率に違いがあることが予想される。その点を調べるためには、最低2回調査を繰り返し、前の調査時に調査対象とした従業員が離職しているケースを追求することが必要になる。昨今のエチオピアでは、離職率の高さが大きな社会問題として取り上げられ、政府の政策課題にもなっているほどである。前年度調査した533名の従業員のうちの、2割ないし4割近くが1年後に離職していても不思議はない。携帯電話番号を聞き出してあるので、離職した元従業員から離職の理由等を聞き出す追跡調査が可能である。これが今年度の調査と前年度のそれとの主な違いの一つである。他には若干の新しい質問を質問票に含める点で、前年度と異なる。また、昨年度の企業調査の調査員をトレーニングし現場指揮をしてくれたPolicy Study Instituteの研究員が国際機関の研究部によって引き抜かれてしまい、現場指揮者の交代が必要になる見込みである。そのため昨年と同様に、新しい現場指揮者と頻繁に連絡を取り合い、本研究の目的から質問票の一つ一つの質問の意図に至るまで完全に理解してもらうつもりである。
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