新興諸国においては、地場企業の経営力が不足しているために、製品の高付加価値化が進まず、中所得国の罠に陥る可能性が指摘されている。その一方で、先進国で用いられている経営の知識は、トレーニングを通じての普及が可能であることがわかってきた。本研究では、東南アジア新興国の地場企業を対象として、生産管理の一手法であるカイゼンの研修を提供するフィールド実験を行う。日本企業はカイゼンの導入によって生産性を向上させてきた歴史があるが、カイゼンは会計やマーケティングといったその他の経営分野ほどは体系化されていない。そのため、暗黙知的な側面を持つカイゼンの普及については、まだ明らかになっていない点が多い。フィールド実験による研修を通じて、カイゼンの知識の普及がどの程度可能であるか、カイゼンの導入が持続的な生産性や職場環境の向上につながるかどうかを定量的に検証する。2019年度の補助金からの繰り越し分と、2020年度の補助金とをあわせて、2021年1月にベトナムの約400社を対象として質問票を用いてのデータ収集を行った。この400社は、北部ベトナムの3か所の産業集積地で操業している企業であり、企業の業績や経営技術の導入状況に加え、コロナによる影響やその対処法に関してのデータを収集した。この調査は、過去に実施したカイゼン導入の介入の、事後調査という位置づけともなる。今後こうして収集したデータの分析を進め論文を執筆し、国際ジャーナルへの論文の掲載を目指す。
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