研究課題/領域番号 |
18H00866
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西村 幸浩 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (90345471)
|
研究分担者 |
長谷川 誠 京都大学, 経済学研究科, 准教授 (50722542)
寺井 公子 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (80350213)
小野 哲生 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (50305661)
森田 薫夫 福岡大学, 経済学部, 講師 (00802737)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 租税競争 / 利益移転 / 多国籍企業 / 政策手番 / プリンシパル・エージェントモデル |
研究実績の概要 |
福祉国家における財源配分と最適税率に関する論文を進展させた。実証的に尤もらしい、個人の所得・期待寿命および要介護状態になる確率の相関のもとで、公的年金と公的介護保険の予算配分は、後者に全額を投入するか、後者に二期間めの配分で考えた完全保険以上のレベルを供給するのが社会厚生を最大にすることが示された。 多国籍企業の海外子会社の財務データを用いて、日米の多国籍企業の利益移転行動を実証分析し、平均的な日本企業の海外子会社は、米国企業の海外子会社と比較して、利益移転の程度が低いという結果を得た。この論文は学会にて報告され、またディスカッションペーパーとして公表された。 異なる2地域ないし国家間で労働者が移動可能な状況下で、所得再分配政策決定の手番を内生化した研究を行った。この研究では逐次手番に従って税率が決定される帰結が均衡となることが示され、また、低所得者が少ない地域が先導する逐次手番は、低所得者の多い地域が先導する逐次手番に比べて、リスク支配均衡、およびパレート支配の観点からみて望ましいことが示された。 プリンシパルである財政当局が、エージェントである支出官庁に支出を委任するために、1期に当初予算、2期に補正予算を配分するプリンシパル・エージェントモデルを構築し、均衡での努力水準と財政当局の補正予算・当初予算の選択を分析した。 財政ルールが経済成長と厚生に与える影響については、2018年度に行った分析とは異なる代替的なタイミングの下での分析を行うための経済モデルを構築するため、2019年度はまず関連する文献のサーベイを行い、どのようなモデリングが適切か検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年4月5日-6日に、本研究課題にて世界第一線で活躍する著名研究者を招聘して、大阪大学にて国際会議「2019 Symposium of Public Economics」を開催した。この会議には、財政理論の世界的権威であるRobin Boadway教授(Queen's University、以下外国人教員の呼称を「教授」で統一)、租税競争理論で業績のあるEmmanuelle Taugourdeau教授(Ecole normale superieure Paris-Saclay)、Andreas Haufler教授 (University of Munich) 、 Hubert Kempf教授(Ecole normale superieure Paris-Saclay)、David Agrawal 教授(University of Kentucky)が報告し、日本からは西村幸浩(研究代表者)、長谷川誠(研究分担者)などが報告した。各報告論文は、フロアからのコメントや討論などをもとに修正され、査読付き学術誌へ投稿される。 また、租税競争、政治経済学の分野において、査読付き学術誌への投稿、公刊を継続し、また国際学会での報告などを通じて研究の進展を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
第一に、法人税の税率と課税ベースの決定に関する分析を行う。税務執行が不完全で、利益移転を各国の税務当局が防げないときには、企業利潤は各国にとって望ましい課税ベースではないかもしれない。他方、欧州のCCCTB(共通連結法人税課税標準)構想のように、雇用、資本、売上といった課税ベースを採用することは、利益移転を防ぐ一方で、企業行動に歪みを与える。このようなトレードオフのもとで、代替的な課税ベースのもとでどのような内実の租税競争と厚生損失が生じるかを、理論モデルを用いて分析する。 第二に、国際租税競争均衡で、高額所得者に課される所得税率が、投資家の自信過剰 (overconfidence)によりどのように変化するかを研究する。この研究においては、高所得者の移住可能性と高所得者への所得税率の低下、投資家の非合理的行動、国際租税競争の文献における近年の諸研究との関連づけに留意する。 第三に、近年の国際課税制度の改正が日本企業の海外子会社による利益移転に与えた影響に関する論文を国際学術誌に投稿し、更なる論文の改訂や分析の精緻化を行う。 第四に、企業参入数と企業の脱税行動が内生的に決定するもとでの最適課税の研究を行う。 第五に、アメリカの州単位の財政データを用いて、人口高齢化が課税、公共支出、労働市場への規制等に、どのような影響を与えるかについての実証分析を行う。特に、州間の戦略的相互依存関係、政治制度、足による投票の効果をコントロールし、人口学的要因と州財政との関連性を明らかにする。
|