研究課題/領域番号 |
18H00870
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
C Y.Horioka 神戸大学, 経済経営研究所, 教授 (90173632)
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研究分担者 |
新見 陽子 同志社大学, 政策学部, 教授 (30742647)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 遺産 / 世代間移転 / 生前贈与 / 教育・人的資本 / 格差 / 貯蓄 / 資産蓄積 / 家族介護 |
研究実績の概要 |
最近世界中で大きな話題になっている格差問題について論じる際、ある一時点において社会経済的地位の格差がどれだけあるかは言うまでもなく非常に重要であるが、世代間における社会経済的地位の相関がどれだけ高く、社会経済的地位の格差がどの程度代々継承されるかも同じくらい重要であり、研究に値する。なぜならば、スタート時点において人々が平等であることが望ましく、スタート時点においてすでに大きな社会経済的地位の格差があることは望ましくないからである。これまでの研究では、世代間における社会経済的地位の相関が強く、社会経済的地位が代々継承される傾向にあることが示されている。しかし、親から子への世代間移転(親から子への教育投資や遺産、生前贈与など)が、世代間の社会経済的地位および格差の継承にどの程度貢献しているのかは明確にされていない。そのため、本研究の目的は、親から子への様々な形の世代間移転が、世代間の社会経済的地位の継承、またそれに伴う格差の継承にどの程度貢献しているのかを、日本などからの個票データを分析することによって明らかにし、格差を軽減するための政策提言を行うことである。本研究の貢献は、(1)世代間の社会経済的地位および格差の継承における世代間移転の役割について検証している点、(2)親から子への移転を網羅的に捉え、様々な形の世代間移転を考慮している点、(3)国際比較を行っている点、(4)経済学的な観点から分析を行っている点である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の進捗状況は極めて良好であり、1年だけで7本の学術論文を完成させ、出版している。したがって、進捗状況は計画以上に進展しているといえる。例えば、Niimi and Horioka (2018)は、日本とアメリカに関するデータを分析し、両国において遺産を貰った人のほうが遺産をもらっていない人よりも遺産を残す確率が高く、遺産が資産格差の世代間の継承をもたらしているといった分析結果を得ている。また、Niimi and Horioka (2019)は、日本に関するデータを分析し、高齢者の資産の取り崩し率は予想以上に遅く、それは予備的貯蓄と遺産動機の存在、特に前者によって説明できるといった分析結果を得ている。さらに、Niimi (2019)は、2015年1月に実施された日本の相続税の事実上の引き上げは遺産から生前贈与へのシフトと遺産から自分の消費へのシフトの両方をもたらしたといういった結果を得ている。そして、Niimi (2018)は戦後日本において親子間の学歴の継承が増しており、その理由の1つが借り入れ制約の存在であり、その重要性が近年さらに増しているといった分析結果を得ている。 つまり、日本においても、アメリカにおいても、教育投資の形の世代間移転も、遺産・生前贈与の形の世代間移転も重要であり、資産格差・教育格差の世代間(親子間)の継承をもたらしているようである。格差問題を考える上ではこれらの分析結果は極めて有用であり、奨学金・教育ローンの拡充によって教育機会の均等化を図り、相続税・贈与税の引き上げによって遺産・生前贈与を減らすということの重要性を示唆する。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ホリオカは大阪大学21世紀COE・グローバルCOEが2003年以降4ケ国において実施している「くらしの好みと満足度についてのアンケート調査」からの個票データを用いて、人々の遺産動機の決定要因に関する実証分析を行い、特に、老後の世話を子供にしてもらっているか否か、公的介護保険制度における要介護度、社会的規範などの影響について見る予定である。なお、ホリオカは同じデータを用いて、人々の退職年齢・労働供給の決定要因に関する実証分析をおこない、特に遺産動機の影響に焦点を当てる予定である。 (2)ホリオカは、ヨーロッパの27ケ国などにおいて2011年以降実施されている Survey of Health, Ageing and Retirement in Europe (SHARE) というアンケート調査からの個票データを用いて高齢者の貯蓄・資産蓄積行動の決定要因に関する実証分析を行い、特に遺産動機と予備的貯蓄の影響に焦点を当てる予定である。 (3)新見は、應義塾大学パネルデータ設計・解析センターが1993年以降実施している「消費生活に関するパネル調査」からの個票データを用いて女性の資産蓄積行動の決定要因に関する実証研究を行い、特に結婚するか否かの影響に焦点を当てる予定である。 (4)新見は、独立行政法人労働政策研究・研修機構が2019年に実施した「家族の介護と就業に関する調査」からの個票データを用いて、親の介護が人々の就業行動にどう影響するかに関する実証分析を行い、特に育児・介護休業法の影響に焦点を当てる予定である。 本年度は、これらの研究を通じ、遺産動機、親の介護、結婚などが人々の貯蓄・資産蓄積行動、就業行動にどう影響するかについて検証することにより、格差(特にその世代間の継承)の実態・決定要因・解決策について明らかにする予定である。
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