研究課題/領域番号 |
18H00874
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
石坂 元一 福岡大学, 商学部, 教授 (60401676)
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研究分担者 |
山崎 尚志 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (30403223)
柳瀬 典由 東京理科大学, 経営学部経営学科, 教授 (50366168)
中村 恒 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 教授 (80418649)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 巨大災害(CAT) / リスクファイナンス / 保険 / デリバティブ / 官民の役割分担 |
研究実績の概要 |
本研究では,巨大災害を念頭に置いたリスク管理について1.需要主体が企業部門であるか家計部門であるか,2.供給主体が民間であるか公的制度であるか,といった2軸を設定したうえで,4つのセグメント-(A)企業×民間,(B)企業×公的,(C)家計×民間,(D)家計×公的-に分けて特徴的な学術的論点を提示し,個別のテーマを理論的・実証的に研究する。研究初年度である平成30年度は,各研究者が研究体制を整え,上記(A)と(D)の論点を明らかにするとともに,当該論点に関する理論研究及び実証分析に着手した。 まず,(A)では,中村は,動学一般均衡モデル上での大災害(CAT)保険の効率性を示す枠組みを構築しデリバティブ商品としての大災害 (CAT)債の意義についても考察を加える論文の第一稿を執筆し,国際学会発表に投稿した。この間,中村はDePaul大学(米国シカゴ)に2018年10月から研究滞在した。当大学は,金融機関・リスク管理の研究に関してArditti Center for Risk Managementを設立し世界最先端にあり,米国中央銀行の地区連邦準備銀行であるシカゴ連邦準備銀行やシカゴ・マーカンタイル取引所などの政策・金融実務とも密接に交流しており,産学官の交流の拠点として本研究に大変有用であった。石坂は,次年度学会報告に向けてOECD刊行の巨大災害時のリスクファイナンスにかかる資料を中心に整理し,またデリバティブ利用における需要者サイドのリスク測定に関した実証研究成果を複数の研究会にて報告した。 また,(D)では,柳瀬は,家計向け地震保険制度における契約件数の変動について行動経済学の観点から,柳瀬と山崎は,ベイズ統計の手法を援用することで,大震災後の制度変更が地震保険制度の契約者行動に及ぼす構造変化の有無とその特徴を分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は研究初年度として,各研究者が研究体制を整備し,分担したプロジェクトの論点を整理し,学会報告の準備と論文投稿を行った点から,概ね順調に進展していると判断できる。各研究者の進捗は具体的に以下の通りである。 プロジェクト研究(A)(市場不完備性下における保険とデリバティブ担当)では,中村は,論文の初稿を完成し学会発表への投稿も完了しており,予定通りに進捗している。石坂は,論文執筆まで至っていないが,デリバティブ利用のリスク態度に関する分析を行った。加えて,セクメントの関連を意識して,巨大災害時のリスクファイナンスにかかる資料を整理し,次年度学会報告に備えた。 プロジェクト研究(D)(巨大災害の発生が保険加入行動に与える影響分析担当)では,主に2つのプロジェクトを進めた。第一に,柳瀬は,2つの大震災(阪神淡路と東日本)発生後の家計向け地震保険制度における契約件数の変動について,行動経済学の観点から分析を行い,国際学術誌に投稿した。現在,その第2ラウンド(Revise and Resubmit)に取り組んでいる。第二に,柳瀬と山崎は,大震災後の制度変更(各種割引制度の導入)が地震保険制度の契約者行動に及ぼす影響を分析した。特に,ベイズ統計の手法を援用することで,構造変化の有無とその特徴を探ったところ,震源地からの距離ではなく,政令指定都市を含む大都市圏に飛び地効果として構造変化が強く観察されることを発見した。そして,こうした新発見をもとに,国際学会発表ならびに国内の複数の研究会(セミナー)で研究報告を行い,学会やセミナー参加者からのコメントを踏まえて,現在,本格的な論文執筆を行っているところである。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は,前年度に着手した理論研究及び実証分析を発展・拡張する。 まず,(A)では,中村は,前年度に執筆した論文を改善・発展して,CAT保険と対比する形でCAT債の効率性を示すモデルを構築する予定である。石坂は,デリバティブのみならず,これと保険との対比をより意識した理論・実証研究を進め,論文の執筆に取り掛かる。加えて,前年度に収集した資料も活用しながら,研究統括者として(A)~(D)の関連性を検討する。 また,(D)では,前年度に進捗した2つのテーマをさらに前進させる。第一に,大震災後の家計向け地震保険制度に関する行動経済学分析については,柳瀬が,既に投稿中の国際的学術誌の複数の査読者からのコメントに対して適切な処置をするとともに,最終的な掲載確定に向けた作業を進める。第二に,地震保険制度の改変による契約者行動の構造変化に関しては,柳瀬と山崎が,前年度の分析結果等を踏まえ,その解釈をさらに深める作業を進める。具体的には,地震保険の契約者行動に関する構造変化が地理的な近接性ではなく全国の大都市部に集中的に波及しているという事実を確認したことを受けて,その解釈を深めるべく追加分析を行うとともに,早ければ2019年度後半を目処に論文投稿の準備に入る。 加えて,本年度は,柳瀬と山崎を中心に,新たに(C)家計×民間のテーマに関しても具体的な論点を明らかにする。そのために,大災害後の損害保険会社の株価変動に関する既存研究を整理するとともに,未だ明らかにされていない論点を洗い出す作業を行う。 なお,研究成果に関しては,国内・国際学会での発表を行いながら研究成果の社会への発信を開始し,研究討論を行うことによって論文の改善を試みる。こうした個々の研究活動に加えて,最終年度に向けて個別プロジェクト間の融合も検討し始める。
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