研究課題/領域番号 |
18H00878
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
高橋 基泰 愛媛大学, 法文学部, 教授 (20261480)
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研究分担者 |
岩間 剛城 近畿大学, 経済学部, 准教授 (30534854)
長谷部 弘 東北大学, 経済学研究科, 教授 (50164835)
山内 太 京都産業大学, 経済学部, 教授 (70271856)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 近世日英地方信用関係網形成 / 旧上田藩上塩尻村 / ケンブリッジ州ウィリンガム教区 / 地方金融ネットワーク / 伊勢暦書き込み / 蚕種市場活動 / 無尽 / 講 |
研究実績の概要 |
本年度は、日本およびイギリスにおける近世英国地方信用関係網形成について、経済史・人口史・系譜学および隣接諸領域の研究成果を集積し、現時点での研究水準を総括し、本研究の重要な基礎となる検認信託証書データベース生成を、既存英国遺言信託データベースに組み入れる形で遂行している。とくに、市場経済化への村落社会の対応を地域小口金融の形成史として対比分析する過程で、その形成プロセスそのものが、より多角的で広い観点からのアプローチの必要性を、日本の各地における講を生み出す地域社会と自然環境の実地調査を通じて確認してきている。具体的成果である知見は、海外共同研究者であるケンブリッジ大学C .マルドルー教授との議論を通じ、イギリスの金融史は、あくまでも1694年設立のイングランド銀行史以降のものであり、地方銀行については、1960年代の制度史研究に限定され、地方金融ネットワークの社会経済史的研究が体系的になされることはなかったことが判明した。一方、史料実地調査により、藤本蚕業歴史館(上田市上塩尻)所蔵の伊勢暦(1689年以降1871年まで)には、同時代の証言として書き込みがあることを発見した。とくに1737年から1781年までと、1858年以降1868年までの詳細な書き込みは、天候・災害・蚕種業をも含めた農事・市況や、無尽・伊勢講についても言及がある。少なくとも、この伊勢暦からの記録以外には記録のない事例も多く、とくに天候や作況など貴重な情報源である。意義としては、蚕種取引関連の日記や帳面の代わりをしており、18世紀後半に確立する取引形態の形成が確認でき、市場活動の証拠は少なくとも10年遡ることを明らかにした。(文献:「資料 旧上田藩上塩尻村伊勢暦書き込み1」『国際比較研究』第15号、2019年3月公刊)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記業績のところでも触れたように、金融史についての従来の研究は、基本姿勢として現在の銀行から遡ってなされており、英国ではイングランド銀行成立以降、日本でも明治以降の近代的銀行資本の成立に主眼が置かれている。このことは、2019年4月に招へいしたケンブリッジ大学C・マルドルー教授との議論を通じてあらためて確認されていることである。したがって日英双方で、18世紀の地方信用組織・金融ネットワークの形成史がその後の金融史の前提として未解明であることがわかってきた。すると、前史、それも単に金融組織のみならず、その主体となる諸社会経済的要因、とくに家計・家・同族一族との有機的関連を明確にする必要性がますます強まる。そのためにも現在、上塩尻研究会は研究成果公開のための総合モノグラフの公刊を急ぎ、原稿執筆を行っている。また、新たな史料・データの発見とともに、日英対比もさらに多角化し、新たなアプローチが求められているため、そのための試論も講じている(拙稿「日英村落史的対比研究方法試論:世代継承と家屋敷分布」『愛媛経済論集』第38巻第2・3号、2019年5月公刊予定)。さらに、2019年9月にはフランス・パリで開催される世界農業史学会においても研究成果公開の一環として英文報告を準備している。一方で、昨年以来の各地における近世期地方金融組織のための日英対比研究としての実地調査を続けている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、本研究課題の基本研究姿勢であり技法である対比研究法を堅持する。この方法は、相互の独自性を認めた上で相互の共通・相似・相違性を発見していこうという問題意識に由来する。研究対象とその研究者双方にその姿勢が適用される。したがって通常の比較法のような対象同士に異なる特徴を見出す姿勢はとらない。異なる国・文化を背負う研究者同士における異文化コミュニケーションを前提にする研究技法である。その上で、主要作業である、既存データの新たな観点からのとらえ直しを続け、モノグラフ・レベルで多角的に小口金融についての分析をする。また、広く国際セミナー・学会でのディスカッションを行い、問題視角・アプローチを深化させていく。これらのアウトプットの基礎となる基本文献調査・分析および実地調査を継続させる。
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