研究課題/領域番号 |
18H00884
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
犬塚 篤 名古屋大学, 経済学研究科, 教授 (30377436)
|
研究分担者 |
山岡 隆志 名古屋商科大学, 商学部, 教授 (70739408)
山口 景子 名古屋大学, 経済学研究科, 准教授 (40801410)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | サービス / 生産性 / 分散マネジメント / リーダーシップ / 適応的販売 |
研究実績の概要 |
2019年度の研究実績については,サービスの生産性向上を実現するための組織的要因の抽出を中心に行った. 研究代表者の犬塚は,サービスの生産性向上を実現するためのマネジメント指導であるサービス機能の分散マネジメントに関する実証研究を行い,その成果をJournal of Economics, Business and Management誌に報告した.また,そうした分散マネジメントを実現するリーダーシップ機能に関して国内経営学の主要雑誌である『組織科学』誌,ならびに組織要因と個人要因の差に関する分析を,『マーケティングレビュー』誌に相次いで報告し,後者についてはベストオーラルペーパー賞を受賞した.加えて,販売員のスキルとしての適応的販売に関する新たな分析手法をSIBR 2020 (Sydney) Conferenceにて報告し,Best Paper Awardを受賞した.サービスの生産性に関するアプローチに関する考察も進めた. 研究分担者の山岡は, マーケティングにおける顧客マネジメント論の観点から海外のトップジャーナルおよび書籍による先行研究レビューを引き続き行った. さらに, 関係する学会や研究会に赴き情報収集に努めた.その成果を定期的に行っている共同研究者が集まる会議で情報共有し, 実証分析を行うためのモデルを構築に活用した.また, 実証分析に協力する企業担当者との打ち合わせを何度か行い, 実証分析を行うための質問内容の構築を行った. 研究分担者の山口は,需要発生タイミングを用いたサービス提供の最適化の観点から,共同研究先の飲食店から提供が予定されているPOSデータの精査を実施した.また,共同研究先との打ち合わせにおいて,主にプロセスの観点から店舗での消費者アンケート調査の設計を行った.これらの取り組みに関する知見を得るために,関連学会や研究会に参加して情報収集を行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は,共同研究が決まった飲食店の調査の実施準備に入った.本調査では,サービスの知覚品質に関する履歴効果(顧客に関するアンケート),およびその顧客の購買データの分析(POSデータ解析)の2つからなるが,新型コロナウイルスの感染拡大に伴い,調査実施時期の先送りを余儀なくされ,当初計画よりはやや遅れることとなった. そこで新たに,ホテルチェーンに関する消費者のサービス知覚に関する分析を開始した.この研究には大きく2つの柱があり,ひとつはホテル予約サイトの利用者コメントから,サービスに関する事前期待値を推定するものである.このアプローチには多数の主観を突き合わせて妥当性を確保する必要があるため膨大な時間を要し,現在もその作業を継続中である.また,この事前期待値の妥当性を他の角度からも確保する目的で,もうひとつの調査を実施した.これは,ホテルチェーンの利用者に直接事前期待値等を評価してもらうもので,大まかな分析作業は終えている. 一連の研究を通じてほぼ確信を抱いたことは,顧客によるサービスの知覚品質は,客単価や購買意欲の向上に必ずしも直結していないということである.顧客からのサービス知覚品質を高めることは重要と考えられているが,本研究の主要課題である「サービスの生産性」という観点からいえば,サービスの品質の向上をいたずらに目指すことが良策とは思われない.この点で,消費者が抱く事前期待値の構造を分析することは,企業が効率良く顧客を獲得するためのマネジメント手法の構築につながる可能性が高く,消費者の認知構造に踏み込んだ分析を深めていきたいと考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
当初,本研究課題のサービスの生産性は,分子にサービスの付加価値向上をおき,分母にそれを実現するための費用とすることを捉えていたが,研究が進展する中で生産性に関する考え方を改めることになった.詳しくはいずれ論文化する予定であるが,サービスの生産性向上には顧客と消費者の主観共有化という問題が横たわっている.これまでの研究成果では,サービスの提供を「機能」と捉えてきた感があるが,今後はサービスの提供者(プロバイダ)とその受益者(顧客)との相互作用に着目した分析視点が必要だといえる.新型コロナウイルスの影響で実施が遅れている飲食店での調査に関しても,これまでの分析視点にとらわれることなく,新たな視点を組み入れることを検討している.たとえば,POSデータを用いたアソシエーション分析を応用することで,需要発生タイミングを予測する販売員の認知などを解明する方法を構築できないかを考えている.とはいえ,現状では外出自粛が強く求められおり,調査対象先や研究分担者との間で十分なやりとりができず,調査実施までしばらくの時間を要することは否定できない. そこで,実証調査を一時中断している間,新たな消費者調査を計画している.これは,サービスの生産性を捉えるための新たな視点の有効性を示すために,消費者の実態データを援用するというものである.この調査票の設計は2019年度にも試みたもののかなり難易度が高く,関連する研究者との意見交換も行いながら,時間をかけて慎重に作成していきたい.
|